抄録
遺伝的貧毛 (Hypotrichosis: WBN/I1a-Ht) ラットは, その背部皮膚に糜爛や痂皮形成を特徴とする皮膚炎を発症する。このラットの病巣部および正常部皮膚を細菌学的に検索し, 同様に調べた無毛 (Atrichosis) ラットおよびWistarラットを対照として比較検討した。貧毛ラットの病巣部および正常部皮膚の総菌数は各々3.9×105~1.16×108, 1.6×103~1.8×104CFU/cm2であった。病巣部では, その殆どがS.aureusとして検出され, 正常部皮膚では, S.auyeusが菌構成比のおよそ9割を占めていた。無毛ラットの皮膚総菌数は, 貧毛ラットの正常部皮膚総菌数とほぼ同程度に検出され, その殆どがStaphylococcus sp.であり, そのうち半数はS. auyeusとして同定された。Wistarラットの皮膚総菌数は64~2.98×105CFU/cm2であった。その細菌叢は主としてcoagulase negative Staphylococcus (CNS) , S. auyeus, α-hemo. Streptococcus sp.で構成されており, 中でもCNSが最も多く検出された。また, 貧毛ラット病巣部の組織学的検索では, 上皮層内に菌塊を認め, 好中球を主体とする細胞浸潤が認められた。これらの結果から, 貧毛ラットに発症する皮膚炎はS. auyeusに起因すると推測され, この皮膚炎発症はラットにおける形質特有の何らかの内的要因に左右されていることが示唆された。