抄録
バイオマーカーを用いたがん種の正しい判別は,がん原発部位の特定や最適な治療法の選択に重要である.miRNAは発生,分化,増殖など多様な生体内プロセスで重要な役割を果たすこと,定量が比較的容易であることから,がん判別のための有力なバイオマーカー候補である.成熟miRNAは,1本の前駆体miRNAからdicerにより切断されて2本のarm(切断部位より5’および3’末端側)を生じ得るが,近年のRNAシーケンス技術の発達により,1つの成熟miRNA armにも5’(3’)側が1から数塩基付加された(削られた)複数のイソ型(isomiR)が存在することが明らかになった.典型的なmiRNAは数百の遺伝子を(多くは抑制的に)制御するが,細胞はisomiRとしてmiRNAにバリエーションを持たせることで,実にきめ細かく遺伝子発現パターンを制御して自身の機能や恒常性を維持していることが想像できる.
本稿では,組織中isomiR発現の大規模データと機械学習をうまく組み合わせ,32種のがん種(表1)の判別に成功した研究について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Loher P. et al., Oncotarget, 5, 8790-8802(2014).
2) Telinis A. et al., Nucleic. Acids Res., 45, 2973-2985(2017).