アルツハイマー病(AD)では,アミロイドβ(Aβ)の蓄積により形成されるアミロイド斑のほかにも前頭皮質などでシナプスの喪失が認められ,その程度は認知機能の低下と強い相関がある.しかしシナプス喪失の機序は不明である.発生期の脳では過剰なシナプスが剪定されることで,成熟した神経回路が形成される.このシナプス剪定では,補体を介したミクログリアによる貪食作用が重要な役割を担っている.ゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果から,ミクログリアや補体関連遺伝子のAD病態への寄与が報告されており,ADにおけるシナプス喪失の機序として,発生期に見られる補体を介したミクログリアによるシナプス剪定の機序が関与している可能性がある.本稿では,この仮説を検証したHongらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Schafer D. P. et al., Neuron, 74, 691-705 (2012).
2) Lambert J. C. et al., Nat. Genet., 45, 1452-1458 (2013).
3) Hong S. et al., Science, 352, 712-716 (2016).