ソラフェニブは,腎細胞がん,肝細胞がんおよび甲状腺細胞がんに対して用いられている分子標的薬であり,MAPキナーゼ経路に存在するRAFや血管内皮増殖因子(VEGF)受容体のキナーゼ阻害作用を持つ.さらにソラフェニブは,フェロトーシスを引き起こすことも知られている.フェロトーシスは,近年発見された鉄依存的な非アポトーシス性の細胞死であり,形態,代謝,遺伝子発現の点で,アポトーシス,ネクローシスおよびオートファジーとは大きく異なる.生体防御タンパク質であるメタロチオネイン(MT)は,必須金属の代謝調節,重金属の解毒,活性酸素種の消去作用を持ち,ヒトにおいては11種類の分子種が存在する.また,がん細胞ではMTタンパク質の発現量が変動することが知られている.本稿では,MT-1タンパク質が肝細胞がんにおけるソラフェニブ治療のバイオマーカーとなる可能性を示したHouessinonらとSunらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Houessinon A. et al., Mol. Cancer, 15, 38 (2016).
2) Sun X. et al., Hepatology, 64, 488-500 (2016).