2017 年 53 巻 4 号 p. 361
アルツハイマー病は,アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドが脳内で異常沈着する病態を示す.Aβは,異常凝集によりアミロイド線維を形成し神経細胞毒性を示すと考えられている.Aβは前駆体タンパク質であるAmyloid-βprecursor proteinの部分断片であり,γ-セレクターゼによる切断部位の多様性により,主に40残基(Aβ40)と42残基(Aβ42)の分子種が存在する.Aβ42は,Aβ40と比べて凝集形成速度が速いことや神経細胞毒性が高いことから,Aβ42がどのような立体構造をとることでアミロイド線維の形成に関わるか注目されている.立体構造決定の一般的な手法として,X線結晶構造解析や溶液核磁気共鳴(NMR)法があるが,Aβは結晶化困難かつ難容性のため,それらの手法での構造研究は難しい.しかし近年,固体NMR法を利用したAβの立体構造研究の発展により,2015年,XiaoらによってAβ42のアミロイド線維の立体構造が主鎖二乗平均偏差 1.08Åの精度で決定された. 立体構造の特徴として,Z字型のcross-β-sheetをとっており単量体のAβが層になっている.
今回,Wältiらは固体NMR法を用いて,より高分解能なAβ42のアミロイド線維の立体構造を明らかにしたので紹介する(主鎖二乗平均偏差 0.89Å).
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Xiao Y. et al., Nature Struct. Mol. Biol., 22, 499-505(2015).
2) Wälti M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 113, 4976-4984(2016).