ファルマシア
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アテローム性動脈硬化症と脂肪性肝炎をともに改善し得る新規治療戦略
池田 義人
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2017 年 53 巻 6 号 p. 590

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抄録

近年,アテローム性動脈硬化症に対する新規治療薬のターゲットとして,核内受容体liver X receptor(LXR)の活性化が注目されている. LXRは,腸細胞や肝細胞など多くの細胞に発現しており,脂質代謝関連遺伝子群の発現制御を介してHDL粒子の形成などに関与する.そのためLXRを活性化することで,動脈硬化病巣に認められるプラークからコレステロールを排出させる治療が可能になると期待されている.しかし,合成アゴニストを用いたLXR活性化は,脂肪酸合成関連遺伝子群の転写因子sterol regulatory element-binding protein 1c(SREBP-1c)の発現を上昇させることが報告されており,肝臓への脂質沈着を促進してしまう問題を抱えていた. このことから,アテローム性動脈硬化症の治療薬としてLXRアゴニストを用いることで,非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD)を増悪させてしまうことが危惧されている. NAFLDは近年,非常に多くみられる異常所見であり,アテローム性動脈硬化症の発症とも関連する.また,NAFLDのうち,肝硬変へと進行する症例は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれ,治療の対象となるが,効果的な薬物療法は確立されておらず,治療薬の開発が熱望されている.本稿では,Hsiehらによって報告された,アテローム性動脈硬化症とNASHの両疾患に対する治療ターゲットとなることが期待されるtetratricopeptide repeat domain protein 39B(T39)の生理機能に関する研究を紹介したい.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Ma Z. et al., Curr. Issues Mol. Biol., 22, 41–64(2017).
2) Repa J. J. et al., Genes Dev., 14, 2819–2830(2000).
3) Ducheix S. et al., Biochem. Pharmacol., 86, 96–105(2013).
4) Hsieh J. et al., Nature, 535, 303–307(2016).
5) Teslovich T. M. et al., Nature, 466, 707–713(2010).

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© 2017 The Pharmaceutical Society of Japan
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