抄録
航空医学(aviation medicine)は,地上とは異なる航空環境(低温,低圧,低酸素,高速度,高加速度,閉鎖空間等)が人間に与える影響,および人間と機械との関係について理解する分野の学問であり,医学,生理学,心理学,人間工学,工学等の専門家が,研究や航空運輸行政,パイロットの教育訓練等で活躍している.航空医学における薬学の寄与はこれらの分野に比べて限られてはいるが,航空安全において重要な一翼を担っている.例えば服薬治療の操縦能力への影響,機内外の環境衛生,航空事故原因究明のための化学鑑定等は薬学の領域といってもよい.筆者が勤務する航空医学実験隊は,我が国で唯一の総合的な航空医学研究機関である.
本稿では,研究職技官としての30年余の歩みを振り返りながら,薬学出身者にとっての航空医学の一端を紹介したい.