血管内皮細胞は血流によって,常に機械的な力にさらされている.血流による機械的な力は,血管の炎症やアテローム性動脈硬化病変の形成に関与している.一方向性の血流によるせん断応力は抗炎症作用やアテローム形成抑制効果を示し,乱流はアテローム形成を促進する.Yes-associated protein(YAP)/transcriptional coactivator with PDZ-binding motif(TAZ)は転写活性化補助因子であり,組織サイズの制御やがん抑制作用を示すHippoシグナル伝達経路のエフェクター分子である.また,YAP/TAZはマトリクスの硬さや細胞の伸展など,機械的な力により活性が制御される.このため,YAP/TAZは,機械的な力を生化学的な応答へと変換するメカノトランスダクション制御分子として注目されている.しかし,血行動態によるアテローム性動脈硬化病変の形成におけるYAP/TAZの役割は不明であった.
本稿では,血流によるせん断応力が,血管内皮細胞のYAP/TAZを介して,アテローム形成を制御するメカニズムを明らかにしたWangらの研究を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Dupont S. et al., Nature, 474, 179-183(2011).
2) Wang L. et al., Nature, 540, 579-582(2016).
3) Tzima E. et al., EMBO J., 20, 4639-4647(2001).
4) Gong H. et al., Science, 327, 340-343(2010).