ファルマシア
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肥満を抑える薬の発掘:線維芽細胞増殖因子が体重と代謝を調節する
谷田 守
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2018 年 54 巻 8 号 p. 816

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抄録
肥満遺伝子であるレプチンが白色脂肪組織で発見されてから,20年以上が過ぎた.新たな肥満治療薬の開発が進んだが,国内大手の製薬会社は6年前にレプチンに関する創薬の中止を発表し頓挫している.レプチンの脳への作用について,動物実験レベルでは,摂食抑制と代謝亢進を起こして抗肥満作用を惹起するものの,同時に交感神経系の増大に伴う血圧上昇作用が見られる.これは,レプチンが脳に作用すると自律神経系を介して全身の臓器に影響することでホメオスタシスに関与することを示唆している.したがってホメオスタシスについては,レプチンが代謝を活性化させて「やせ」シグナルを惹起させる反面,血圧を上昇させて「高血圧」を招く危険性も含んでいる.一方で,レプチンは食事後に分泌が促進されるため,糖代謝調節にも関与することがわかっており,重度の糖尿病を発症する脂肪萎縮症の患者にレプチンを投与すると糖代謝が改善することから,糖尿病治療薬として臨床応用されている.レプチンのみならず,これまで摂食状況に応じて末梢臓器から分泌されるホルモンは,胃からのグレリン,小腸からのインクレチンなどが同定されている.本稿で紹介する線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)は,ヘパリン結合因子として血管新生や創傷治癒などの既知の作用を持っているが,近年,内分泌作用として機能するFGF19とFGF21による代謝調節作用が肥満治療薬への応用に向けて注目されつつある.
本稿では特に,小腸由来のFGF19と肝臓由来のFGF21が脳に作用して,自律神経系を介して代謝亢進させて糖および脂質代謝を改善させる仕組みを動物実験で新たに発見したLanらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Zhang Y. et al., Nature, 372, 425-432(1994)
2) Bell B. B. et al., Curr. Obes. Rep., 5, 397-340(2016).
3) Degirolamo C. et al., Nat. Rev. Drug. Discov. 15, 51-69(2016).
4) Lan T. et al., Cell Metab., 26, 709-718(2017).
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© 2018 The Pharmaceutical Society of Japan
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