ファルマシア
Online ISSN : 2189-7026
Print ISSN : 0014-8601
ISSN-L : 0014-8601
トピックス
メラノーマの薬剤耐性獲得におけるROCK-myosinⅡ経路の役割
田村 裕穂
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 56 巻 12 号 p. 1135

詳細
抄録

悪性黒色腫(メラノーマ)は,皮膚がんの1つであり,メラニン細胞ががん化することで発生する.MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase: MAPK)経路は,がん細胞の増殖促進および生存能の獲得に重要なシグナル伝達経路である.B-rapidly accelerated fibrosarcoma(B-Raf)は,MAPK経路を構成するセリンスレオニンキナーゼであるRafキナーゼのサブタイプの1つである.B-Rafの600番目のバリン残基がグルタミン酸残基に置換されたB-Raf変異(BRAF V600E変異)は,下流キナーゼの過剰な活性により,様々ながんの悪性化を引き起こすことが知られている.メラノーマではBRAF V600E変異が高頻度で見られ,これに対してはB-Raf阻害薬(B-Raf inhibitor: BRAFi)が用いられる.
細胞の運動を制御するアクトミオシンの収縮にはRhoファミリー低分子量Gタンパク質が関与し,そのエフェクター分子であるRhoキナーゼ(Rho-associated coiled-coil-containing protein kinase: ROCK)依存的なミオシン軽鎖2(myosin light chain2: MLC2)のリン酸化が重要である.MLC2のリン酸化は,アクチン繊維上を動くモータータンパク質であるmyosinⅡのモーター活性を上昇させる.MyosinⅡ活性上昇により細胞の収縮力が増大することは,がん細胞の浸潤・転移能の亢進につながる.近年,がんの薬剤耐性獲得に,浸潤・転移を促進するシグナル伝達系が関与することが示された.本稿では,BRAFiおよび免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体に対するメラノーマの薬剤耐性獲得におけるROCK-myosinⅡ経路の関与を検証した報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Alexander S., Friedl P., Treands Mol. Med., 18, 13-26(2012).
2) Jose L. O. et al., Cancer Cell, 37, 85-103.e9(2020).
3) Sharma P. et al., Cell, 168, 707-723(2017).
4) Hugo W. et al., Cell, 165, 35-44(2016).

著者関連情報
© 2020 The Pharmaceutical Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top