抄録
脳は適応行動を導くため,神経活動をパターン化し,外部の世界観を表現する.脳の多くの領域では,個々の皮質ニューロンが,物体や空間位置の認識など,それぞれの領域の機能に見合った認知や適応に関与している.なかでも意思決定に関与している前頭野では,その神経応答は複雑さと多様性を極める.意思決定時の前頭皮質における表現構築の理解は,視覚など単純な認知機能を定義することよりも困難である.また,前頭葉から得られた神経データは解釈の可能性が無数にあり得ることから,特定の認知機能を選択的に解析する行動実験の構築は更に困難であり,現在まで意思決定が単一のニューロンで理解できるかどうか,もしくは神経集団分析が必要かどうかも不明である.
本稿では,ラットを用いて意思決定に重要な役割を担う眼窩前頭皮質(OFC)の神経活動が,計算モデル上でのいくつかの変数の適切な組み合わせで説明できることを示したHirokawaらの研究成果を報告する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Rigotti M. et al., Nature, 497, 585-590(2013).
2) Mante V. et al., Nature, 503, 78-84(2013).
3) Hirokawa J. et al., Nature, 576, 446-451(2019).
4) Shi J., Malik J., IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell., 22, 888-905(2000).