抄録
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis: UC)は,クローン病とともに炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)に分類される.時に血液を伴う下痢や腹痛を引き起こし,寛解と増悪を繰り返して慢性的な経過を辿る.UCの発症メカニズムは今日においても解明されておらず,根本的な治療法も確立されていないことから患者数は世界規模で増加傾向にあり,日本では難病に指定されている.そのようなUCに対し,たばこの煙(cigarette smoke: CS)が発症リスク,進行,再発を抑えるという疫学的な報告がある.また,UCモデルとして確立されているデキストラン硫酸ナトリウム(dextran sulfate sodium: DSS)誘発性大腸炎マウスにおいても,疫学的所見に肯定的な結果が得られている.しかし,CSの腸管炎症に対する影響を調べた研究は限られており,そのメカニズムは明らかとなっていない.今回,Lo SassoらはUCモデルマウスを用いて,CS曝露によって腸管での発現量が変動する遺伝子群を同定した.また,CSがマウス腸内細菌叢の組成に影響を与え,大腸炎の緩和または回復の促進に寄与することを明らかにしたので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Mahid S. S. et al., Mayo. Clin. Proc., 81, 1462-1471(2006).
2) Lo Sasso G. et al., Sci. Rep., 10, 3829(2020).
3) Kang C. S. et al., PLoS One, 8, e76520(2013).