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特定の神経回路刺激でマウスの人工冬眠に成功
中谷 仁
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キーワード: 人工冬眠, 低代謝, 低体温
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2021 年 57 巻 2 号 p. 151

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抄録

「冬眠」とは,ほ乳類が冬季の厳しい寒さ,食物不足時に,代謝量を長期にわたって下げ,その期間を過ごす現象である.恒温性を持つほ乳類が,冬季にもそれを維持するには大変なエネルギーが必要であるが,冬眠することで代謝量自体を著しく低下させ,低体温のまま生命を維持することができる優れたシステムである.
げっ歯目だとリス科,ヤマネ科などで冬眠が知られている.また霊長目では,コビトキツネザル科が知られている.残念ながら,ヒトには冬眠はない.
ただ,ヒトでも極めて稀なケースではあるが冬眠状態が起こったのではないか,と考えられる事例が報告されている.これは神戸市六甲山で35歳男性が秋登山の後,遭難して意識を失い,20日後に救助された事例である.発見時には心肺停止状態,体温22度であったが,翌日には意識を取り戻し,後遺症もなかったのである.この事実から,一般にヒトは冬眠できないが,その誘導機構は備わっており,何らかの理由で不活化された状態にあるのではないか,といった類推が成り立つ.
今回,紹介させて頂く論文は,ヒトと同じく冬眠はないと考えられている研究用マウスで,特定の神経回路刺激を行うことで冬眠に似た状態を人工的に誘導することに成功した,初めての報告である.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) 和 秀雄,“冬眠する哺乳類”,東京大学出版会,2001.
2) Blanco M. B. et al., Sci. Rep., 3, 1768(2013).
3) 朝日新聞朝刊,東京本社版,2006年12月20日.
4) Takahashi T. M. et al., Nature., 583, 109-114(2020).
5) Takayasu S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103, 7438-7443(2006).

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© 2021 The Pharmaceutical Society of Japan
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