ファルマシア
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CAR T細胞を使って老化細胞を除去する
松丸 大輔
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キーワード: 細胞老化, Senolysis, CAR T細胞
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2021 年 57 巻 4 号 p. 322

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抄録

元来,自然な状態での“ヒト”の寿命は30年程度と考えられてきたが,労働環境,住環境,衛生,医療の改善により,多くの先進国で80年ほどに延伸されてきている.寿命の延長に伴う高齢化の中で,多くの人々が加齢による組織・臓器の機能低下を経験している.個体の老化,そして白内障や動脈硬化をはじめとする老化関連疾患に大きく関わるのが細胞老化という現象であり,テロメア長の短小化,DNA損傷,発がんシグナルの活性化,酸化ストレスなどがその誘導因子となることが知られている.細胞老化を起こした細胞は,細胞周期が停止し,細胞死に対して耐性を持つ.また本来の機能を失い,サイトカイン・ケモカイン等を放出して組織の微小環境をかく乱する.
このような細胞を選択的に除去することが老化関連疾患の進行の遅延,寿命の延長,生理機能の回復・維持につながることが見いだされている.老化細胞選択的に細胞死(senolysis)を誘導する薬剤をsenolytic drugと呼び,現在まで,BCL2・BCL-xL特異的阻害剤(ABT263),チロシンキナーゼ阻害剤(dasatinib)とquercetinの併用,BETファミリータンパク質阻害剤(ARV825)などが報告されている.しかしながら,効果が十分ではない,あるいは副作用発現の懸念から更なる改良が望まれている.
本稿では,近年認可された免疫細胞療法キムリア®でも記憶に新しいchimeric antigen receptor(CAR)T細胞を,senolysis誘導に応用したAmorらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Van Deursen J. M., Science, 364, 636-637(2019).
2) Chang J. et al., Nat. Med., 22, 78-83(2016).
3) Zhu Y. et al., Aging Cell, 14, 644-658(2015).
4) Wakita M. et al., Nat. Commun., 11, 1935(2020).
5) Amor C. et al., Nature, 583, 127-132(2020).

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© 2021 The Pharmaceutical Society of Japan
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