2024 年 60 巻 11 号 p. 1069
生物は危険な目にあった文脈を記憶し,その後の危険察知に利用する.「危険」と「安全」の適度な区別は生存に有利に働くが,心的外傷後ストレス障害(PTSD)など強い心理ストレスを経験した患者では恐怖記憶の過度な汎化が起きてしまい,安全な状況であっても些細な手掛かりで恐怖記憶が想起されてしまう.恐怖記憶の汎化の仕組みには不明な部分が多く,その解明は記憶学習機構の理解という神経科学的側面と,不安性障害の治療法開発という臨床的側面の両方において重要な課題である.本稿ではLiらによる,強度ストレス負荷後のマウス背側縫線核セロトニン神経における共放出神経伝達物質のスイッチングと,恐怖記憶汎化におけるその寄与に関する論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Li H. et al., Science, 383, 1252-1259(2024).
2) Hashimotodani Y. et al., Cell Rep., 25, 2704-2715(2018).
3) Kim S. et al., Neuron, 110, 1371-1384(2022).
4) Nakamura Y. et al., Sci. Adv., 8, eadd5463(2022).