特集:アディクション研究の現状と新展開
特集にあたって:本来,「依存症」とは薬物依存(物質依存)を指すものであったが,最近は「ギャンブル依存」「ネット依存」「スマホ依存」といった嗜癖(行動依存)にも「依存症」という言葉が用いられ,世間を賑わせている.これら「アディクション」には「やめたくてもやめられない」という,共通の脳内機序が存在すると考えられている.本特集では,アディクションの歴史と現状,新たな動物実験モデルも含めた最先端の研究を紹介していただくとともに,今後の予防法・薬物治療法の可能性,薬剤師の役割についても考えてみたい.
表紙の説明:覚醒剤,大麻,危険ドラッグなどの薬物依存だけでなく,ギャンブル,ゲーム,インターネットなどの行動依存もまた,大きな社会問題となっている.これらのアディクションは,やめたくてもやめられないという共通した特徴があり,脳内ドパミン神経系を介した一部共通の機序が関与すると考えられている.薬物依存に関する研究に加え,行動依存に関する研究も,げっ歯類や線虫などを用いた新たなモデルが開発されて急速に進められている.
「依存」には、世界保健機関による定義がある。それによれば、原因として薬物による薬理作用が必須であり、結果的に「依存」と呼べるものは「物質依存」しかない。かつては「中毒」と「依存」との使い分けは曖昧であったが、今日では、それなりに使い分けされるようになった。ところが、今度は、「依存」と「嗜癖」との混同が起きている。「物質依存」が障害の一つとしての立ち位置を獲得してきたのは、「物質依存」に関する脳内病態研究の成果の蓄積があってのことであろう。それに対して、「行動嗜癖」に関する脳内病態研究の成果はあまりにも少ない。今後、「物質依存」に関する研究成果を座標軸として、それとの異同を含めて、「行動嗜癖」に関する科学的脳内病態研究の推進が必須であろう。
システイン選択的アリール化を用いた抗体のプロドラッグ化,薬用ニンジンにおけるギンセノシド類の代謝活性化を介した防御機構,極めて簡便な動物皮膚の透明化技術を駆使した生体内部の直接観察,がんの浸潤・進展を骨膜が抑えるという新たな抗がん機構の発見,医薬品リスク管理計画における医療従事者および患者向けの資材について,COVID-19ワクチンの効果と手指消毒の重要な役割
本稿では、筆者らが実施する「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の結果をもとに、近年、我が国において国民に最も多くの健康被害を引き起こしているのは、「捕まらない薬物」「規制されていない薬物」、さらに言えば、「1回使っても人生破滅になんてならないことを自ら体験済み」の身近な医薬品であることを指摘した。こうした事実を踏まえ、薬物問題の歴史的および人類学的考察から、単に依存性薬物の薬理作用にだけ注目した啓発や規制施策ではなく、薬物乱用・依存する人の心理社会的背景に焦点化した対策が必要であると主張した。
ギャンブル障害は行動嗜癖とよばれる依存の一つである。有病率は、海外の調査では、0.12~5.8%とされるが、2020年の国内調査では、18歳以上75歳未満の2.2%にギャンブル障害が疑われた。ギャンブル障害の治療として有効性が示されているのは、心理社会的治療法であり、認知行動療法や動機づけ面接法が中心となる。有効性が証明されて承認されている薬物療法は存在しないが、抗うつ薬、オピオイド拮抗薬、気分安定薬などで研究が進められている。
薬物乱用者は、薬物摂取による精神の変容あるいは心身の維持のために、薬物の使用を自ら断つことが困難となってしまっている。我が国における薬物乱用問題は、危険ドラッグ、オーバードーズ、さらには、大麻の検挙者がはじめて覚醒剤の検挙者を超えるなど、明らかにパラダイムシフトが起こっている。本稿では、薬物乱用者は、どんな感覚を何を求めて乱用しているのかなどを含めて近年のトレンドを追いながら概説していく。
物質依存と行動嗜癖を含む概念であるアディクションは、世界的に深刻な社会問題となっており、その神経生物学的基盤のより深い理解と、より効果的な治療法の発見が求められている。最近の研究では、アディクションの根底にあると考えられる多くのメカニズムが、無脊椎動物を含むより原始的な生物にも存在することが示されている。ここでは、オピオイドを中心とした物質依存の神経機構を調べるための線虫モデルの有用性について紹介したい。
近年、大きな社会問題となっている行動嗜癖とはギャンブル、インターネット、ゲームなどの特定の行動に対する欲求の制御が不能となり、自制できないほどのめり込んだ状態を指す。実験動物を用いた基礎研究が乏しく、詳細な病態メカニズムは不明であるため、治療薬も開発されていない。本稿では、行動嗜癖を評価する新たな実験系としてマウスの輪回し行動を利用して明らかにした、特定の行動に対する欲求制御の神経メカニズムについて概説する。
薬物依存症は脳に異常をきたす精神疾患であり、そのメカニズムはまだ完全には解明されていない。しかし、中脳腹側被蓋野から側坐核へ投射するドーパミン作動性神経系の活性化に伴う多幸感は、依存性薬物に共通で見られる初期の神経精神薬理作用であると考えられている。本稿では、ドーパミンが側坐核でどのように働くかについて分子基盤について概説する。依存症の病因・病態の解明や治療戦略の創出などにつながることが期待される。
薬物依存症の治療における最大の障壁は,断薬後も数ヵ月から数年にわたり薬物への病的な摂取欲求(自己制御困難な「渇望」)と,それに基づく再使用が繰り返される点にある.再使用へと繋がる“渇望の再燃”は,中枢興奮薬の摂取,薬物使用と結びついた環境刺激,およびストレスなどのネガティブな感情が引き金となる.本稿において取り扱う薬物自己投与実験は,薬物依存研究における主要な研究法の1つとして挙げられ,渇望再燃の基礎研究に不可欠な実験法と考えられている.本稿では,薬物依存症における渇望の再燃に焦点を当て,薬物自己投与実験の方法論,渇望再燃の発現機序,および依存症治療薬の探索にかかわる最新の知見を概説する.
危険ドラッグの流通は現在も継続している。流通規制のためには、その根拠となる化学的なデータの収集が必須である。本稿では、代表的な危険ドラッグである合成カンナビノイドの健康被害の概要および動物や細胞を利用した基礎研究領域における有害作用評価システムの現状を紹介する。また、類似の化学構造を有する危険ドラッグを一括で規制する「包括指定」の現状とあり方について解説する。
近年、若者を中心として市販薬の乱用問題が拡大していることが様々な場面で指摘されるようになった。医療現場においては、市販薬の急性中毒による救急搬送、依存症の患者が急増している。薬剤師は、市販薬の販売に従事する唯一の医療従事者として、市販薬乱用のゲートキーパー(命の門番)の役割を果たすことが期待されている。本稿では、市販薬乱用の現状について理解を深めるとともに、薬剤師に期待される役割や今後の課題について整理した。
シスチン症は、細胞内のライソゾームへシスチンが蓄積することで発症する先天代謝異常症であり、腎、眼球、骨髄等全身の組織において細胞障害が生じる。角膜は無血管組織であるため、既存薬の内服による角膜シスチン結晶蓄積への治療効果は期待できず、点眼剤の開発が望まれていた。
本剤(システアミン塩酸塩点眼液)は欧州及び米国に続き、本邦において2024年3月に「シスチン症における角膜シスチン結晶の減少」を効能又は効果として承認を取得した。
慢性移植片対宿主病(cGVHD)は、同種造血細胞移植の主要な合併症であり、移植片の免疫細胞が宿主を異物と認識してレシピエントの体細胞を攻撃することで発生する全身性疾患である。
ベルモスジルはRho結合コイルド・コイル領域含有タンパク質キナーゼ(ROCK)2を選択的に阻害し、cGVHDに対するT細胞免疫応答の調整作用及び抗線維化作用を示す。既存の治療薬とは異なる作用機序を有することから、cGVHDの二次治療における新たな治療選択肢として期待される。本邦では、2024年3月に「造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病(ステロイド剤の投与で効果不十分な場合)」を効能・効果として製造販売承認を取得した。
東北大学を中心とし開発された人工知能とタンパク質エンジニアリングの融合技術「aiProtein®」は、いまだデザインが困難なタンパク質を、人工知能をガイド役とすることで高い成功確率でエンジニアリングする技術である。本投稿では、人工知能とタンパク質エンジニアリングの融合の背景や意義、また実際にaiProtein®を抗体エンジニアリングに利用した実施例を記す。さらに、今後、人工知能支援タンパク質エンジニアリングが開く将来についても言及する。
星薬科大学薬用植物園では,従来からの役割である薬用植物の収集・栽培や展示に加えて,社会的交流を促進する植物の収集や利用方法,そして園内のデザインについて検討している.その一環として,学部学生を対象として,植物素材をコミュニケーションツールとして使いこなすための体験型講義を行っている.これらを総合して,心身の健康に加えて社会的健康に役立つ植物について学ぶ「ウェルビーイング植物園」へのバージョンアップを提案している.
日本人と西洋人の間にある容易に認識できる違いは, 分断する要因ではなく, むしろ日本での生活を魅力的で充実したものにしてくれる豊かな要素である. 数十年にわたり日本人と接してきた著者の経験は, 表面的な違いはあっても, 本質的に同じであることを明らかにしてきた. 私たちは皆, 同じような願望, ニーズ, 感情を共有している. 異なるのは, これらの感情の外見的な現れだけであり, それは本質的に学習された行動である. 日本が今までにないほど多くの外国人労働者の流入に取り組む中で, 多様性を育み, 管理することは, 日本が持続的に繁栄していくために不可欠である.
計算化学者としてのこれまでのキャリアについて,探索と活用という概念と絡めて振り返った.目の前の研究対象にただ取り組む行き当たりばったりの人生だが,結果的にこれまでの知識を活かしつつ,未知の分野に取り組むことができている.今後も計算化学という自分の専門性を高めつつ,これまでまわりから受けてきたものを若い方にお返ししながら,創薬研究を続けていきたい.
生物が生産する生物活性物質の探索研究、いわゆる天然物の「モノトリ」研究の面白さは、研究テーマの自由度の高さにあると感じている。いつの時代も生物が作り出す多様な化合物の構造と機能の解明を目指す自由な「モノトリ」研究が生命科学研究の新領域を切り拓いく原動力となってきた。今後も既存の学術領域にとらわれない自由な発想で「モノトリ」研究に取り組み、天然物の面白さを伝えることができる研究者を目指したい。
芳香族ヘテロ環化合物の位置選択的な官能基化は,新規医薬品開発など薬学領域においても重要な反応である.しかし,当該化合物固有の反応性に起因するバイアスが強く,位置選択性の制御は困難であり,選択性の高い官能基化法の開発が望まれている.本稿では,最近報告された触媒的デサチュレーションを効果的に用いた芳香族ヘテロ環化合物の位置選択的なアミノ化反応を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Boyle B. T. et al., Science, 378, 773-779(2022).
2) Cao H. et al., Science, 378, 779-785(2022).
3) Corpas J. et al., Nature Catal., 7, 593-603(2024).
4) Dighe S. U. et al., Nature, 584, 75-81(2020).
細菌感染症は,人類の歴史と切り離せない永遠の課題である.これまで多くの抗生物質が開発されてきたが,新規抗生物質の承認件数は急激に減少している.一方,薬剤耐性菌は増加の一途を辿っており,感染症領域では新薬開発が耐性菌に追いついていない.薬剤耐性は感染症のほかにがん領域でも頻発する課題であるが,薬剤耐性がんに有効な戦略の1つとして,標的タンパク質分解誘導(proteolysis targeting chimera: PROTAC)がある.PROTACはヒトのタンパク質分解経路を利用して標的タンパク質を分解する技術であり,がん領域において複数の臨床試験が進行している.結核菌ではATP依存性アンフォールダーゼであるcaseinolytic protease C1(ClpC1)と,タンパク質分解酵素のClpPが複合体となりタンパク質分解を担う.先行研究より,結核菌のClpC1に結合するデスオキシシクロマリンA(dCymA)を用いたBacPROTACが概念実証されている.本稿では,新規作用機序の抗生物質と成り得るHomo-BacPROTAC戦略と,薬剤耐性結核菌に対する有効性について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Cook M. A., Wright G. D., Sci. Transl. Med., 14, eabo7793(2022).
2) Morreale F. E. et al., Cell, 185, 2338-2353(2022).
3) Junk L. et al., Nat. Commun., 15, 2005(2024).
4) White T. R. et al., Nat. Chem. Biol. 7, 810-817(2011).
オキサゾールは,酸素原子と窒素原子を含むヘテロ5員環化合物である.オキサゾールを構造中に有する化合物(オキサゾール化合物)は,π-π相互作用や水素結合などの分子間相互作用により,多様な生物活性を示すことから創薬リードとして注目されている.また,微生物の二次代謝産物としても報告があり,特に末端にオキサゾールが結合したものはユニークな生物活性を示すことが知られているが,単離,構造決定された例は少ない.
本稿では,近年,急速な発展を遂げている遺伝学的アプローチであるゲノムマイニング法に加えて,オキサゾールが示す特徴的なNMRケミカルシフト値を指標にした標的指向型のメタボロゲノミクスアプローチにより,末端オキサゾール構造を有する新規化合物を微生物資源より見いだした例を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Zhang H. -Z. et al., Eur. J. Med. Chem., 144, 444-492(2018).
2) Park J. et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 63, e202402465(2024).
3) Hiemstra H. et al., Can. J. Chem., 57, 3168-3170(1979).
ATP binding cassette(ABC)トランスポーターはATPの加水分解エネルギーをもとに基質を能動輸送する膜タンパク質で,通常この輸送は一方向である.しかし,この常識から外れた双方向輸送型のABCトランスポーターがマイコバクテリアで発見された.本稿では,BacAと称されるこのABCトランスポーターのコバラミン輸送をin vitro蛍光アッセイで計測したNijlandらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Nijland E. et al., Nat. Commun., 15, 2626(2024).
2) Rempel S. et al., Nature, 580, 409-412(2020).
3) Gopinath J. M. H. et al., Open Biol., 3, 120175(2013).
4) Arnold M. F. F. et al., J. Bacteriol., 195, 389-398(2013).
薬剤耐性結核は,治療が困難で慢性化しやすく,薬剤耐性菌による死者数の4分の1を占める世界的な問題となっている.一般に薬剤耐性菌は,薬剤感受性菌と比較して増殖速度が遅い等fitness(本稿では「適応度」とする)の低下が見られ,結核菌もその例外ではない.この適応度の低下が,薬剤耐性結核の患者間感染を抑えるのではないかと考えられていた.しかし,薬剤耐性結核菌の実際の感染力は感受性菌に勝る可能性があることが数理モデルによって示され,補償的な変異を獲得することで適応度が高まり,より効率的に感染することが示唆された.本稿では,リファンピシン(rifampicin: Rif)に対して耐性を示す結核菌の適応度の低下および補償的な進化のメカニズムを解明したEckarttらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Cohen T., Murray M., Nat. Med., 10, 1117-1121(2004).
2) Eckartt K. A. et al., Nature, 628, 186-194(2024).
3) Bosch B. et al., Cell, 184, 4579-4592(2021).
4) Delbeau M. et al., Mol. Cell, 83, 1474-1488(2023).
生物は危険な目にあった文脈を記憶し,その後の危険察知に利用する.「危険」と「安全」の適度な区別は生存に有利に働くが,心的外傷後ストレス障害(PTSD)など強い心理ストレスを経験した患者では恐怖記憶の過度な汎化が起きてしまい,安全な状況であっても些細な手掛かりで恐怖記憶が想起されてしまう.恐怖記憶の汎化の仕組みには不明な部分が多く,その解明は記憶学習機構の理解という神経科学的側面と,不安性障害の治療法開発という臨床的側面の両方において重要な課題である.本稿ではLiらによる,強度ストレス負荷後のマウス背側縫線核セロトニン神経における共放出神経伝達物質のスイッチングと,恐怖記憶汎化におけるその寄与に関する論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Li H. et al., Science, 383, 1252-1259(2024).
2) Hashimotodani Y. et al., Cell Rep., 25, 2704-2715(2018).
3) Kim S. et al., Neuron, 110, 1371-1384(2022).
4) Nakamura Y. et al., Sci. Adv., 8, eadd5463(2022).
炎症は,生体内外からの刺激に対する防御反応であり,病原体や死細胞などの排除および損傷組織の修復過程において重要な役割を担う.一方で,生体には炎症応答の抑制機構も備わっている.これら炎症の惹起および収束機構の破綻は,自己免疫疾患や糖尿病,がんなど様々な疾患の発症,増悪に寄与すると考えられている.
炎症誘発においてプロスタグランジンやロイコトリエン,血小板活性化因子などの生理活性脂質が寄与することは,広く知られている.また,Toll様受容体(Toll-like receptors: TLR)が刺激されたマクロファージではリピドームが劇的に変化し,これが異常な炎症応答の増強に寄与することも報告されており,適切な炎症応答のためには,厳密な脂質代謝調節が重要であることがうかがえる.一方で,抗炎症(炎症収束)過程に関しては,脂質代謝変動の有無を含め,その詳細な分子メカニズムについては明らかになっていなかった.本稿では,抗炎症性サイトカインであるインターロイキン10(interleukin-10: IL-10)のシグナル欠損における特定の脂質代謝変動の重要性を示したYorkらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Fullerton J. N., Gilroy D. W., Nat. Rev. Drug Discov., 15, 551-567(2016).
2) Heller A. et al., Drugs, 55, 487-496 (1998).
3) Hsieh W. Y. et al., Cell Metab., 32, 128-143.e5(2020).
4) York A. G. et al., Nature, 627, 628-635(2024).
急性心筋梗塞,狭心症などに代表される冠動脈疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患は,早期の介入(生活習慣の是正を含む)に基づき,上述の望ましくないイベントの発生を回避することが重要である.我が国においては日本動脈硬化学会が作成している「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」が5年おきにアップデートされており,加速する高齢化,健康寿命と寿命の乖離などを背景に,ますます重要性が高まっている領域である.動脈硬化の予防に対しては,低密度リポプロテイン(low density lipoprotein: LDL)コレステロールの管理が重要であり,1980年代後半から臨床で使用され始めたHMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン製剤や,その後販売された小腸コレステロールトランスポーターの阻害剤であるエゼチミブに代表される脂質異常症治療薬は世界で最もヒトの寿命延長に貢献した医薬品の1つとして挙げられている.
本トピックスでは,スウェーデンのカロリンスカ研究所のJuan-Jesus Carreroのグループが報告した,アテローム性動脈硬化性心血管疾患に対する一次予防に及ぼす脂質異常症治療薬(スタチンとエゼチミブ)の服薬アドヒアランス,または同治療薬の成分や投与量に応じて定義された治療強度との関連に関する報告を紹介したい.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) 日本動脈硬化学会,“動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版”,2022年. https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/(2024年4月20日閲覧)
2) Mazhar F. et al., Am. Heart J., 269, 118-130(2024).
3) Carrero J. J., Elinder C. G., J. Intern. Med., 291, 254-268(2022).
恩師 藤雅臣先生におかれましては,2024年1月22日にご逝去されました.衷心よりお悔み申し上げます.
近藤先生は大阪大学医学部薬学科(現 薬学部)を卒業され,大学院を経て大阪大学微生物病研究所の助手として,またフルブライト研究員として米国テキサス州立大学で芽胞形成菌の休眠,耐久機構,発芽機構等に関する研究で優れた成果をあげられました.大阪大学薬学部助教授に着任後は芽胞に関する研究に加え,当時大きな社会問題となっていた水銀やPCB等による環境問題の解決に積極的に取り組まれ,今日の環境薬学の基盤を構築されました.さらには環境中の微生物による化学物質の分解に関する研究では,環境微生物学研究に新たな方向性を示されました.
大学では大阪大学薬学部長,大阪大学総長補佐,日本薬学会副会頭等の要職を歴任されるとともに,内閣府や環境庁(現 環境省),通商産業省(現 経済産業省)等の委員として貢献されました.
国際交流やボランティア活動にも積極的で,千里ロータリークラブの会長,国際ロータリー第2660地区のガバナーを務められたのち,2010~2012年度には国際ロータリー理事として活躍されました.近藤先生は優れた研究者であるとともにミュージシャンとしても高く評価され,国際的な舞台においても専門的な知見と行政的なセンス,そして音楽で多くの人々を魅了しました.
近藤先生,どうぞ安らかにお眠りください.
私が学生時代を過ごした学部施設には、通称「談話室」と呼ばれる学生休憩室があった。そこには、ジュースやカップラーメンの自販機、ソファ付きの応接セットがあり、喫煙も可能で、休憩時間などに学生が集う快適な憩いの場であった。時代は流れて建物の改築に伴い、現在は「就職支援室」として利用されている。かつての「談話室」は、今も卒業生の心に懐かしい思い出として語り継がれていくことだろう。