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多情報分子ネットワーキングによる生物活性物質の探索
内倉 崇
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2024 年 60 巻 5 号 p. 446

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抄録

微生物,植物,海洋生物など天然資源を由来とする天然化合物は,医薬品のシード化合物の供給源として重要な役割を担っている.しかし,天然資源から「ものとり」をした後に化合物を同定するという従来の方法では,新規生物活性物質を獲得することが非常に困難になっている.2012年にWatrousらによって紹介された分子ネットワーキングは,ターゲットとした天然化合物を複雑な混合物から合理的に単離することを目的として確立されたデレプリケーション(迅速,かつ効率的な既知化合物の同定)ツールであり,新規化合物探索において効果的なアプローチである.分子ネットワーキングの原理は,分子ネットワークの中で抽出物,純粋な化合物のような生物学的サンプルのタンデム質量分析(MS2)データを調整し,可視化することに基づいている.検出された化合物は点(ノード)として表示され,同じようなMS2スペクトルを有する構造的に関連した化合物は,線によってつながれ,分子ファミリーが形成される.分子ネットワーク中の参照MS2スペクトルデータとの比較により既知化合物の点に注釈がつけられる.近年,生物活性データが分子ネットワーキングに統合された多情報分子ネットワーキングにより,単離する前に生物活性を有する天然化合物を同定できるようになった.これにより生物活性の知られている化合物よりも,新規生物活性物質を優先してターゲットとすることが可能となる.それゆえ,昨今,新規化合物の単離が困難になっている現状においては,多情報分子ネットワーキングが非常に有用なツールとなり得ると考えられる.本稿では,マメ科小高木コウキ(Pterocarpus santalinus L. f.)の心材抽出物の成分探索に対して多情報分子ネットワーキングを適用することで,抗新型コロナウイルス活性を有する天然化合物を見いだしたWasilewiczらによる研究を紹介する.

なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

1) Watrous J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 109, E1743–E1752(2012).

2) Wasilewicz A. et al., Front. Mol. Biosci., 10, 1202394(2023).

3) Ter Ellen B. M. et al., Viruses, 13, 1335(2021).

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