2024 年 60 巻 6 号 p. 583
キメラ抗原受容体(CAR)は,抗体の可変領域(scFv)とT細胞活性化のための細胞内シグナル伝達ドメインの融合タンパク質である.CARが導入されたT細胞(CAR-T細胞)は,理論上いかなる抗原も標的にでき,高い殺腫瘍活性を合わせ持つことから,大きな期待が寄せられる.実際,CD19を標的とするCAR-T細胞療法は,B細胞白血病に高い治療効果を示した.その一方で,固形がんに対する応用には苦戦を強いられている.これには腫瘍局所への浸潤や機能性の維持などCAR-T細胞側の要因に加え,標的抗原の消失と不均一性というがん細胞側の要因が指摘されている.即ち,標的抗原を発現しないがん細胞はCAR-T細胞の傷害から逃れることになる.これは,CAR-T細胞療法が著効したB細胞系腫瘍にも当てはまり,寛解後の再発率が30~50%にのぼる要因ともいわれている.抗原拡散は,特定の抗原に対する最初の免疫応答が,当初の標的とは異なる抗原に対する二次応答を引き起こすことを示す.以前Maらは,CARリガンドワクチンを用いてCAR-T細胞療法の有効性を高めるワクチンブースト戦略を報告した.今回その機序について,ワクチンブーストされたCAR-T細胞は抗原拡散を誘導すること,これにより抗原的に不均一な固形がんも制御できることが報告されたので本稿にて紹介したい.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Ma L. et al., Science, 365, 162-168(2019).
2) Ma L. et al., Cell, 186, 3148-3165(2023).