2026 年 62 巻 1 号 p. 73
生物学的なプロセスの多くは生体分子間の相互作用によって始まる.溶液中におけるDNAの塩基対は,ワトソン・クリック(Watson-Crick: WC)型を主としつつ,フーグスティーン(Hoogsteen: HG)型との平衡を示す.近年,このWC-HG平衡がタンパク質との相互作用において重要であることが明らかになってきた.バクテリアのトランスポザーゼTnpAは,一本鎖DNA上に一過的に形成されるヘアピン構造を標的とし,その左端(left end: LE)と右端(right end: RE)を特異的に認識,結合する.TnpAとDNAの複合体結晶構造では,ヘアピン構造の頂端のループ(アピカルループ)直下のTA塩基対がHG型をとる.本稿で紹介する研究は,タンパク質が結合していないDNA単体において,LEとREのアピカルループ直下のTA塩基対がWC型とHG型の平衡状態にあることを示した.また,ループ長(TTTまたはTT)の違いがWC型とHG型の平衡比率を変え,その平衡比率がTnpAとの親和性に反映されることを示した.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Alvey H. S. et al., Nat. Commun., 5, 4786(2014).
2) Guseva A. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 64, e202425067(2025).
3) Ken M. L. et al., Nature, 617, 835-841(2023).