2026 年 62 巻 1 号 p. 72
微生物が生産する天然物(natural products: NPs)に由来する抗生物質は,感染症治療など人類の発展に大きく寄与してきた.しかし近年,既存抗生物質に対する耐性菌の出現が深刻化しており,これに対応する新たな抗生物質探索が世界的な課題となっている.現在市場に出ている医薬品の約半数がNPsを起源とすることから,今後の抗生物質探索においても微生物由来NPsは極めて重要な資源である.しかし,これまでのNPs探索では,環境中のごく一部(わずか0.1%未満)しか分離・培養できていない微生物に依存してきた.結果として,既知のNPsを再取得するケースが多く,新規NPsの発見には限界がある.微生物種の多様性とNPsの化学構造の多様性は密接に関連すると考えられるため, 多様な微生物を利用することが新規NPs発見の鍵になると考えられる.本稿では,分離時に見落とされがちな微生物から多剤耐性菌に有効な新たなペプチドNPsを発見した好例を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Newman D. J., Cragg G. M., J. Nat. Prod., 83, 770-803(2020).
2) Amann R. I. et al., Microbiol. Rev., 59, 143-169(1995).
3) Bérdy J., J. Antibiot., 65, 385-395(2012).
4) Doroghazi J. R. et al., Nat. Chem. Biol., 10, 963-968(2014).
5) Jangra M. et al., Nature, 640, 1022-1030(2025).