2020 年 16 巻 論文ID: FFR191202-1
網膜色素変性症(RP)は最終的に失明を来す代表的な眼科疾患で,酸化ストレスに起因した視細胞のアポトーシスが関与する.根本的な治療法はなく,この病態の理解と治療法の確立が必要である.われわれは抗酸化作用のあるアセロラ(ニチレイ・アセロラパウダーVC30)を用いて,N- メチル-N- ニトロソ尿素(MNU)誘発ラット網膜変性症モデルおよび遺伝性網膜変性症マウスモデルでの病態抑制効果を検証した.
7 週齢の雌SD ラットに生理食塩液もしくは50mg/kg MNU を単回腹腔内投与した.蒸留水(DW)もしくは4,8% アセロラ水(AW)をMNU 投与の3 日前から解剖日まで2mL/ 匹を1日1回,MNU 投与日は1 日3 回強制経口投与した.MNU 投与後7 日に眼球を採取し,網膜の形態学的評価(視細胞比率,網膜障害率)を実施した.その結果,MNU 群と比べ,MNU+8%AW 群では辺縁部網膜における視細胞比率減少の有意な抑制が認められた.
同モデルを用いてMNU 投与後10,24 時間あるいは7 日の眼球および血清を採取し,メカニズム解析を実施した.DW もしくは8%AW を同様のスケジュールで投与した.眼球はTUNEL 法ならびに各種免疫染色(γH2AX,ロドプシン,PDE6β,HO-1,TG)を実施し,血清はd-ROMs 法により酸化ストレス度を測定した.その結果,MNU 群と比べ,MNU+8%AW 群ではMNU 投与後24 時間の視細胞においてTUNEL およびγH2AX 陽性細胞数(アポトーシスの指標)の減少が認められた.また,HO-1 およびTG陽性細胞数(酸化ストレスの指標)の減少が認められた.MNU 投与後7 日ではロドプシンおよびPDE6β陽性像(網膜機能の指標)の広範囲にわたる残存が認められた.MNU 投与後10 時間で血清酸化ストレス度が有意に軽減した.
C3H 新生仔マウスに生後8 日齢から解剖日まで0.1mL/ 匹のDW もしくは4%AW を隔日または連日腹腔内投与した.生後13 および17 日齢に眼球を摘出し,網膜の形態学的評価(視細胞比率)を実施した.その結果,C3H マウス13 日齢の辺縁部網膜において,DW 投与群と比較して4%AW 連日投与群で視細胞比率減少の有意な抑制が認められた.
以上より,異なるRP動物モデルのMNU誘発ラット網膜変性症および遺伝性網膜変性症マウスモデルでAW による病態抑制効果が認められ,その効果はAWによる網膜での酸化ストレス抑制が関与したと推察された.