抄録
水産サイドにおける環境問題の捉え方は,昭和40年代までは埋立等開発行為による漁場破壊や, 「20世紀・
工業の時代」を象徴する汚染物質の流入等水産が被害者で有るという立場が中心であった。一方,同じ時期
「つくり育てる漁業」においては,養殖業が盛んになるにつれ,糞や水質悪化と生産性の低下を招く「自家
汚染(自らが漁場を汚染)」問題が現実のものとなり始め,今日,漁業者自身が養殖環境を創造保全すべき
であるとする「哲学」が涵養されるきっかけとなった。平成11年度には行政側も持続的養殖生産確保法を成
立させ実体化を図っている。増殖業では,種苗放流が生物多様性を損なうという議論が起こり,遺伝学的手
法による検証が進みつつあるが,構造物設置等の工学的増殖技術も含めて,天然水域での「つくり育てる漁
業」と地球環境問題のすり合わせは今後重要な課題になると考えられる。