入会林野研究
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享保5年、上総国市原、武蔵国都筑、常陸国多珂各郡下の入会紛争
幕府評定所の入会裁判(2)
後藤 正人
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2019 年 39 巻 p. 53-59

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抄録

江戸幕府の評定所による民事判決集が収録された『裁許留』には享保5年以来の入会裁判が数多く収録されている。本稿では現在で言えば、千葉県市原市、神奈川県横浜市、茨城県北茨城市における3件の入会紛争を検討した。全体的に言えば、当時は木材需要が増し、領主からの山年貢などの負担が発生ないし負担増が起こることを契機として、入会集団間の紛争が生じたり、「所持的入会権者」による植林が起こり、「地役入会権者」の利用を制限するような中で、評定所への訴えが生じている。評定所の審理では、両当事者の訴えや弁明を記録すると共に、特に書面による証拠を重視した。これで判明しない場合は、論所へ地方の幕府代官2名の各手代計2名を派遺して検分させ、かつ在地の関係史料を検討させて報告させている。当時の評定所では勘定奉行・町奉行・寺社奉行各1名が実質的な審理を行い、その審議結果を3奉行10名全員で確認した上で裁許したものと思料される。従って評定所では「裁判官全員による合議制」が一応採用されていたことが確認される。

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© 2019 本論文著者
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