入会林野研究
Online ISSN : 2434-3927
Print ISSN : 2186-036X
「寺社と森林」研究序説
入会林野研究との比較を手掛かりとして
峰尾 恵人
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 40 巻 p. 83-99

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抄録

寺社は、古代から森林を所有し、宗教的な原理を反映した森林の管理経営を行う主体である。本稿では、入会林野研究との比較によって、寺社林に関する先行研究の動向の特徴を明らかにした上で、寺社有林に関する唯一の網羅的な資料である農林省山林局編『社寺林の現況』に検討を加え、「寺社と森林」研究の今後の課題について論じた。寺社林に関する先行研究は、入会林野研究と比べて、①量的に少ない、②論点とアプローチが多様で自然科学分野からの研究の比率が高い、③寺社側の視点が弱い、④著名な寺社や地域の事例に情報が偏在している、といった特徴がある。農林省山林局編『社寺林の現況』は、調査・出版の時期と背景が不明であり、本文中の記載および農林省の資料から、1939年の森林法改正と同時期の1939年頃に作成され、1940年に出版されたものと推測した。「寺社と森林」研究の課題として、公共性を帯びた財をめぐる権利配分や制度設計、伝統木造建造物用材生産の担い手としての寺社の可能性の2点を挙げた。入会林野と寺社有林は、近代化の過程の中で前近代的なものと捉えられてきたが、新たな角度から再評価される時期に来ている。

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© 2020 本論文著者
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