学習指導における"learning by doing”の主張はJ. Dewyの経験主義的教育学説の提唱以来のことで決して新しいものではない。しかし,理科においては既製の機器を用いて単に観察・実験を通し,討論を通して学習を行うというだけではなく,さらに進んで教師や学習者自身が一つの事象を解明するための実験法を工夫し,用具を自作し,装置を組み立てて行うところに学習の重要な意義がある。その自作過程において,通常は見逃されやすい理法の認知や新しい問題の発見が可能であり,そのことによってすでに修得した知識がいっそう確実なものとなるからである。過多な情報と種々の機器が氾濫する現代社会においてこそ,教具の自作は理科教育上一層必要である。これらのことについて,具体例を挙げて報告した。一般に,自作には時間を要するので上述のような考え方を現実の学習指導の上に具体化するためには,日ごろ多忙な教師の教材研究の時間をどのようにして捻出すべきか,また,児童生徒のためには教材の精選とかみ合わせて自作活動を理科のどの学習段階にどのように位置づけるべきかについては今後さらに研究を必要とする。この研究は文部省科学研究費特定研究科学教育大橋班内教材教具班の研究の一部として行ったものである。