1981 年 22 巻 1 号 p. 1-8
金属棒を伝わる熱量が,どのような要素に左右されるかを実験・考察し,小学校理科「熱の伝わり方」の教材の選び方について検討した。細長い金属棒の一端を熱し,熱量の移動が定常的になったときの,金属棒と周囲との温度差は,熱源からの距離に対して,指数関数的に減少するいとう理論通りの結果が得られた。温度差の減少の割合は,金属棒の断面積・熱伝導率・円周・発散率などが影響していることがわかった。次に,ニュートンの冷却の法則の実験から,表面より発散する熱量の割合(発散率)は.物体の形・大きさ・種類に関係なく.表面の状態だけで決まることが結論できた。この2つの実験を基礎にして「熱の伝わり方」に関する小学校教材を検討した。先ず,金属棒に等間隔にロウを少量つけ,一端を熱したとき,ロウが熱源の方から融けていく速さで,熱の伝わり方を調べる実験である。同じ直径を持つCu• Al• Feの3本の金属棒について,温度伝導率はCu>Al>Feであるが,実験結果はCu≒Al>Feであり,予想に反する。このことば表面の状態がCuとAlとで違っているために,空気中へ発散していく熱星に差があるためである。従って,この実験をする場合は,金属性塗料を塗布するなどして,表面の状態を同一にするか,又は,表面の状態がよく似た試料を選ばなければならない。同じ実験装置で, 金属棒の一端を,水の入っている小型の熱量計に浸す。金属棒の他端を熱して,金属棒を通じて熱を伝え,水温の上昇速度で熱の伝わり方を調べる実験がある。実験の結果,同じ直径,同じ長さであれば,水温の上昇速度は, 金属の熱伝導率の順になり, 表面からの発散は,あまり影響しないことがわかった。結論として, 「熱の伝わり方」に関する教材として,教材を選ぶ前に「温度の伝逹」か「熱量の伝達」かを見究める必要があり, 「熱の伝わり方」を「熱量の伝わり方」と解釈するときには,一般によく用いられている「ロウを融かす現象」よりも, 「水温を上昇させる現象」の方が優れていることがわかった。