中学から高校へと学年が進むにつれて理科嫌いの生徒が増えていく傾向は特に物理の分野において著しく,その原因は内容が抽象的であることに因ると聞く。しかし高学年になると共に抽象的になっていくのは避けられないことなので,それを分かりやすく教える工夫が必要である。ここでは「運動量」と「運動エネルギー」という抽象的で分かりにくい概念について,先ずこれらの概念を明確にするために両者の違いを分析し,次に分かりにくいと思われるところをどう考えれば分かりやすくなるかを研究した。現象は必ず時間と空間に関連して起こるが,運動量は力の時間的効果を表わし,運動エネルギーは力の空間的効果を表わしている。このことを分かりやすく図示し,そして真上に投げ上げられた物体の運動と,二物体の衝突を例にとって,運動量と運動エネルギーが保存されたり保存されなかったりするのは,時間と空間の性質の違いに起因することを示した。運動量と運動エネルギーが分かりにくいのは,物体がある速度で運動しているという一つの現象に対して,運動量と運動エネルギーという二つの量が対応していることに抵抗を感ずるからであろうと思われる。これについては,始めに静止していた物体が一定の力を受けながらある速度で運動している瞬間の運動量と運動エネルギーを,それまでにかかった時間と動いた距離に置き換えて考えれば,類推によってそのような抵抗を取り除くことができると考えた。