日本理科教育学会研究紀要
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科学の方法とは―中学校理科における問題提起―
石井 博文川崎 謙
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1989 年 30 巻 2 号 p. 55-62

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抄録

中学校理科において、生徒実験によって得られたデータから法則を発見させるという指導は、多くの授業時数を費やして行なわれている。この種の指導が重視されるのは、生徒に科学の方法を習得させる際に効果的であると考えられているからに他ならない。得られたデータに簡単な関数関係、例えば直線を仮定してそこから定量的な法則を導くという行為は、どの様な理念によって保証されているのだろうか。多くの可能性の中からなぜ直線を選択するのかという疑問に対する明確な解答を、我々の理科教育は用意していない。本研究は、自然科学の理念まで遡って、この疑問が何に起因するのかを分析することを試みたものである。中学校理科の目標の「自然を調べる能力と態度の育成」という項目は、「科学の方法を習得させる」という言葉に置き換えることができる。このことは、原理または法則を中心とした科学の営みを習得させることに他ならない。生徒達が理科に興味関心をどのように示すかは、法則の役割の認識にかなり大きな比重がかかっていると考えられる。言うまでもなく、法則の役割の認識なしに西欧自然科学を語ることはできない。法則は西欧自然科学においてどのような理念に基づいて導き出されたものなのか。そして、西欧自然科学の先人たちは、その理念に基づいて何を見ようとしたのか。このことに解答を与えることは、中学生に科学の方法を習得させる上で避けて通ることのできない問題である。生徒に科学の方法を正しく理解習得させるために、教師は科学の方法を意識的に把握しておく必要がある。そのために教師は、西欧自然科学を成立させた西欧人の理念をも理解する必要がある。この態度は科学者の科学に対する態度とは本質的に異なるものである。この一連の理解を促進させるためにも、科学の形而上学的理念の明確かつ具体的な記述が指導書に不可欠であろう。

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© 1989 一般社団法人日本理科教育学会
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