日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
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30 巻, 2 号
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  • 森本 信也
    1989 年30 巻2 号 p. 1-8
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    理科授業における子ども達のPreconceptionの性質及ぴ変容過程を、小学校4年生の「水の状態変化」の授業を通して調査した結果、次の事項が明らかになった。(1) 子ども達が保持しているPreconceptionは「手続き的知識」である。(2) 「手続き的知識」であるPreconceptionの科学概念への変換は、子ども達がこの考え方の矛盾に気づき、反証を加えることによってのみ達成される。(3) 「手続き的知識」の変換は、その変換を意図した教授活動の計画によってのみなされる。子ども達の「手続き的知識」への働きがけがなされない授業においては、彼らのPreconceptionと教師が提示する知識である「宣言的知識」が並存されることが多い。

  • 酒井 均, 栗田 一良
    1989 年30 巻2 号 p. 9-19
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    発達心理学者ピアジェは、子供の知能の発達過程を研究するために多くの独創的な課題を開発している。その中の一つに包摂(包括)課題と呼ばれるものがある。これは、ある一つの類概念(分類概念)の外延は、その下位概念の総てを包含することである。本研究は、この包摂課題を生物の分類学習に応用した問題を幾つか作成し、小・中学生に課して分類能力の定着度を調査したものである。その主な結果は次の通りである。(1) 調査対象となった小学生では、包括問題が要求する動物の基礎的分類能力は大変低く、殆ど無いに等しい。(2) 生物の分類を学習している中学1、2年生でも高々40%しか包摂課題に正しく答えられない。しかも2年生の正答率が1年生の1/2~1/3と低い。(3) これらの事実から、作成した生物の分類概念の包括課題の問題は、分類概念の定着度を評価する上で有用な手段であることが判明した。(4) 以上の結果や個々の問題の応答結果は、小・中学校の生物学習のカリキュラムや指導法に多くの示唆を与えているように思われる。

  • 近森 憲助, 品野 義尚, 谷中 英昭, 村田 勝夫, 荒川 久雄, 山下 伸典
    1989 年30 巻2 号 p. 21-28
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    酵素の一般的性質をたやすく生徒が理解できるようにする一つの試みとしてニトロブルーテトラゾリウム(NBT)によるコハク酸脱水素酵素活性可視化法を検討した。さらに、酵素の存在やその性質を定量的に把握させることを目的として太陽電池を光検出器として装備した簡易比色計を試作し実際の酵素量の測定に応用した。その結果以下のようなことが明らかとなった。1) ニワトリ胸筋(ササミとして市販されているもの)は酵素抽出液の材料として適当である。ただし、非特異的な発色反応を抑えるために、抽出液を適当な緩衝液に一昼夜透析する必要がある。2) ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)は酵素の一般的な性質、例えば、基質に対する特異性、拮抗阻害、基質による酵素の飽和などを脱水素酵素可視化法を用いて示すのに適したテトラゾリウム塩である。しかし、INTなどに比較して価格が高いという問題点があり、今後NBTの使用濃度について検討する必要がある。3) 自作した太陽電池を光センサーとする簡易比色計は、発色試料の色の濃さの測定に関して良好な定量性を有している。そのほか、演示実験例の詳細および簡易比色計の概要などについても言及している。

  • 近森 憲助, 村田 勝夫, 荒川 久雄, 山下 伸典
    1989 年30 巻2 号 p. 29-35
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)による脱水素酵素活性可視化法を酵素学習に取り入れる試みの一つとして、細胞内小器官の一つであるミトコンドリアを封じ込めたポリアクリルアミドゲル(PAAG)フィルムの活用を提案した。このフィルムは、その調製時に細胞内小器官や細胞そのものをその中に封じ込めることにより活性染色中における目的物質の染色反応溶液の遊離や封じ込められたものの形態の破壊が防止できるという利点を有している。本論文では、PAAGフィルムを用いて酵素の一般的性質を示すと同時に、細胞内小器官と酵素の関連性について生徒の理解を深めるということを企図した。そのため、細胞内小器官としてミトコンドリアを取り上げ、ラット肝臓より分画遠心法により調製したミトコンドリアをPAAGフィルムに封じ込め、その標識酵素の一つであるコハク酸脱水素酵素活性を可視化するときの反応条件やPAAGフィルムの保存条件などについて検討した。ここで決定したもっとも適当と思われる条件を使って、酵素の一般的な性質を示すための演示実験をおこなってみた。これらの結果は、教科書的な酵素の基本的性質を示すのにPAAGフィルムが有効であることを示した。光学顕微鏡による染色されたフィルムの観察は、細胞内小器官と酵素の関連性の把握に重要である。実際にフィルムを観察してみると、ミトコンドリアは濃青色に染色された長さ約1μmの粒子として認められた。しかし、その他に非特異的な反応により染色されたものと思われるものもかなり多く認められた。このような状態では、生徒によるミトコンドリアの同定にやや困難があるのではないかと考えられる。今後この点について改良していかなければならないと考えている。

  • 宮野 純次
    1989 年30 巻2 号 p. 37-44
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    中等教育段階において、理科諸科目をどのような形でいつまで必修的に課し、いつから選択的に履修させるかという問題は、洋の東西を問わず、大きな問題となっている。その中にあって、後期中等教育段階の全生徒に理科諸科目すべてを必修として課し、その上で、生徒の適性、能力、興味に応じて特定の科目を選択させている東ドイツの履修方法は、世界的に見て、注目すべきものである。本稿では、この東ドイツの中等教育段階における理科諸科目の選択制の問題について考察した。本研究では、まず東ドイツにおける理科諸科目の選択制に関する歴史的経緯を概観した。次に、現行の教育法において、理科諸科目がどのように履修されているか、その履修のさせ方を、前期・後期中等教育段階において明らかにし、履修上の問題点についても言及した。その結果、東ドイツの中等教育段階における理科諸科目の選択制に関して、以下のことが明らかになった。東ドイツでは、現在、10年制学校において必修教科が全授業時数の大部分を占めており大幅な選択制はとられていない。アビトゥール段階の拡大上級学校でも同様に必修教科が大部分を占めており、理科においても物理、化学、生物がすべての生徒に必修として課せられている。加えて、生徒の能力や適性、職業的要求に応じた学習を行うため、10年制学校上級段階では学習共同体が、また、拡大上級学校では必修教科以外に選択授業や選択必修授業が設けられている。東ドイツでは、生徒の能力や適性を見いだすための前提として、幅広い共通の一般教育を保証した上で、各自の能力や適性に即応した学習を選択的に行わせるという方式がとられていると言える。

  • 来栖 公明, 高瀬 一男
    1989 年30 巻2 号 p. 45-53
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    第3学年の児童に、空気の弾性を教えるための教材として空気でっぽうを与えると、興味を持って取り組むと言われている。しかし、児童は、空気の弾性として認識していないということが、4年生での実態調査で明らかになった。本研究では、児童が空気の弾性としてとらえられない要因を、使用する教材及びその指導過程によるものと考えた。そこで、教材として押し棒ロケットを用い、その有効性と指導過程を検討した。その結果、本研究から明らかにされた知見は、次のようである。(1)児童の空気の弾性についての理解は、導入時に空気でっぽうを教材として使うより、押し棒口ケットを使い、単元の終末段階で空気でっぽうを用いた方がよいこと。(2)マヨネーズでっぽうは、児童が空気の弾性を学習する上で、思考を妨げる原因になること。(3)空気の弾性の教材としては、注射器や浣腸器が有効であること。(4)水が、圧し縮められないことを確かめる実験では、水でっぽう(空気でっぽうの筒の中に水を入れたもの)を使うべきでないこと。

  • 石井 博文, 川崎 謙
    1989 年30 巻2 号 p. 55-62
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    中学校理科において、生徒実験によって得られたデータから法則を発見させるという指導は、多くの授業時数を費やして行なわれている。この種の指導が重視されるのは、生徒に科学の方法を習得させる際に効果的であると考えられているからに他ならない。得られたデータに簡単な関数関係、例えば直線を仮定してそこから定量的な法則を導くという行為は、どの様な理念によって保証されているのだろうか。多くの可能性の中からなぜ直線を選択するのかという疑問に対する明確な解答を、我々の理科教育は用意していない。本研究は、自然科学の理念まで遡って、この疑問が何に起因するのかを分析することを試みたものである。中学校理科の目標の「自然を調べる能力と態度の育成」という項目は、「科学の方法を習得させる」という言葉に置き換えることができる。このことは、原理または法則を中心とした科学の営みを習得させることに他ならない。生徒達が理科に興味関心をどのように示すかは、法則の役割の認識にかなり大きな比重がかかっていると考えられる。言うまでもなく、法則の役割の認識なしに西欧自然科学を語ることはできない。法則は西欧自然科学においてどのような理念に基づいて導き出されたものなのか。そして、西欧自然科学の先人たちは、その理念に基づいて何を見ようとしたのか。このことに解答を与えることは、中学生に科学の方法を習得させる上で避けて通ることのできない問題である。生徒に科学の方法を正しく理解習得させるために、教師は科学の方法を意識的に把握しておく必要がある。そのために教師は、西欧自然科学を成立させた西欧人の理念をも理解する必要がある。この態度は科学者の科学に対する態度とは本質的に異なるものである。この一連の理解を促進させるためにも、科学の形而上学的理念の明確かつ具体的な記述が指導書に不可欠であろう。

  • 中山 迅, 松原 道男
    1989 年30 巻2 号 p. 63-68
    発行日: 1989年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    力に関する子どもの認識に誤りが多いことは、従来から指摘されている。これまでの研究では、静止した物体に作用する力を矢印で表した問題において、特に引力についての誤りが多いことが明らかになっている。本研究では、前回の研究に引き続き、力を矢印で表した場合の誤りについて、矢印の記号的解釈と物体の対象に依存した解釈の2つの観点から、分析を行った。調査は、磁石の力に関するもので、磁石同士の引力と斥力、磁石と鉄の引力の内容からなる質問紙調査を実施した。調査対象は、高校1年生237人、大学3年生248人である。各問題における正答者数および解答パターンの分析から、次の4つのルールを適用していることが考えられた。(1)力を表した矢印を正しく解釈するルール。(2)矢印の根元の方の物体から矢印の先端の方の物体に力が働くといった、誤った記号的解釈を行うルール。(3)矢印の根元のところにある物体から矢印の示す向きに力が働くといった、誤った記号的解釈を行うルール。(4)磁石には力が内在しており、内在している物体から他の物体に力が働くといった、対象に依存した解釈を行うルール。解答においては、これらのルールを組み合わせた6つの解答パターンがあることが考えられた。この6つの解答パターンで説明可能な解答は、高校生では89.9%、大学生では85.5%であった。このことから、ルールに妥当性が認められるものと思われる。

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