日本理科教育学会研究紀要
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中学生の分類能力の調査研究―物質の分類概念を中心として―
北村 太一郎栗田 一良
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1990 年 30 巻 3 号 p. 57-65

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抄録

発達心理学者ピアジェは、子供の知能の発達過程を研究するために多くの独創的な課題を開発している。その中のひとつに包摂(包括)課題と呼ばれるものがある。これは、あるひとつの類概念の外延は、その下位概念の外延の総てを包含することが理解できるか否かを聞く問題である。先に筆者の一人1)は、これを生物の分類概念に応用した問題をいくつか作成し小・中学生に課した結果を報告した。本研究では、この包摂課題を中学理科の物質の分類に応用した問題を5問作成し、これらの内容を学習した中学2年生に課して、物質の分類概念の定着度(認識度)を調査したものである。5つの問題のうち、3つの問題は物質の巨視的概念である純物質・単体・化合物などに関するものであり、残り2つの問題は微視的概念である原子・分子に関するものである。その主な結果は次の通りである。(1) 純物質・単体・化合物に関する3つの問の解答結果を総合的に判断すると、これらの関係の認識度は、下の表の基準で3つのレベルに分けられる。そして、それぞれのレベルの人数の概数は表のようになるが、これらの数値は中学生の認識の実態を表していると考えられる。(2) 原子・分子関係の2つの問題の解答結果も、上と同様に3つのレベルに分けられ、それぞれのレベルの人数の概数も上と殆ど同じになる。すなわち、レベルⅠが約6割、レベルⅡが約3割、レベルⅢが約1割であり、これが中学生の原子・分子の認識の実態を表していると考えられる。(3) これらの事実から、包摂課題を応用して作成した物質の分類概念の問題は、物質概念の定着度を評価する上で有用な手段であることが判明した。(4) 以上の結果や個々の問題の応答結果は、中学校の物質学習のカリキュラムや指導法に多くの示唆を与えているように思われる。

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© 1990 一般社団法人日本理科教育学会
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