日本理科教育学会研究紀要
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エネルギー概念の歴史的形成過程と理科教育(II)―活力論争と力学的エネルギー―
徳永 好治
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1990 年 30 巻 3 号 p. 45-56

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抄録

力学的エネルギーの歴史的形成過程を、活力論争を中心に分析した。更に、そこで得られた知見から理科教育に提起される課題を明らかにした。中学校における、今日の、力学的エネルギーの学習は、ライプニッツ的展開である。その学習内容は、仕事概念が上昇する物体の重量と距離の積で操作的に定義される傾向が強く、さらにそれと力学的エネルギーがガリレオの運動学と関係づけられている。ライプニッツの「活力」が単に数学上の考察であると批判され、また言葉上の問題とされたように、生徒にとってもエネルギーは操作的にしか理解されないであろう。高校におけるその学習は、ダランベール、オイラー、ボスコヴィッチらの解析力学者と同様に、ニュートンの運動法則の数学的展開によるのが特徴である。彼らが活力の物理的意味に強い関心を示さなかったように、生徒が数学的解析だけでエネルギー概念を形成することは困難である。そこで、フラーフェザンデあるいは産業革命初期の技術者であるスミートン、エワート、そしてL.カルノーらの活力にたいする実際的知見が、中学でも高校でも取り入れられることが強く求められる。彼らは、仕事を物体の様々な形態変化として実験的および技術的にとらえ、それ故にエネルギー概念としての活力に強い関心を示したのである。この見方は科学認識の必然的順次性であって、理科教育において重視されなければならない。

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© 1990 一般社団法人日本理科教育学会
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