日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
Print ISSN : 0389-9039
科学的概念の形成と理解―「浮力」概念の形成と教科書の内容構成について―
堀 哲夫宮澤 研
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 35 巻 1 号 p. 1-10

詳細
抄録

本研究は,生徒・学生が「浮力」の概念をどのように理解しているのか,「浮力」の認識が学習により変容するのかあるいはしないのか,それらの実態を調査した結果と考察である。「浮力」の内容の中でも,とりわけ「水中の物体に動く浮力の大小と物体の属性(体積,形状,低面積)および物体の水中での状態(高低,深浅,向き)の関係」の認識について調査した。さらに,教科書による「浮力」の学習が学習者の概念形成にどのような影響を及ぼしているのか,についても検討した。調査の結果として以下の四点があげられる。(1) 物体が深いところにあるほど「浮力」は大きいとする誤った考えを持つ場合が多い。(2) 物体に働く「浮力」の大きさについては,物体の形より物体の深さ,高さ,底面積により影響される。(3) 質問の仕方により解答が大きく異なることが多く,生徒・学生の「浮力」の考え方は.学習により必ずしも確立してはいないと考えられる。(4) 「浮力」の大きさと物体にかかる「圧力(水圧)」の関係が正しく理解されていないことが多い。それには,教科書の内容構成も関わっている。これらの四点をふまえ,適切な「浮力」概念の形成のためには.教科書の内容構成や記述において,教科書に学習者を合わせるのではなく.学習者に教科書を合わせることがこれまで以上に必要とされていることを論述した。

著者関連情報
© 1994 一般社団法人日本理科教育学会
次の記事
feedback
Top