2023 年 22 巻 3 号 p. 75-79
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)における卵巣癌のほとんどは高異型度漿液性癌(high grade serous carcinoma;HGSC)であり,低異型度漿液性癌(low grade serous carcinoma;LGSC)やその発生母体となる漿液性境界悪性腫瘍(serous tubal intraepitherial carcinoma;SBT)はまれである.今回,BRCA2に病的バリアントを認めたSBTの症例を経験したので報告する.
症例は66歳,女性.40歳代で卵巣腫瘍の診断で手術を行い,組織診断はSBTであったが,細胞異型や間質反応が強く,卵巣癌Ⅰa期(FIGO 1988)に準じて治療をした後,定期検診を行っていた.本人がBRCA1/2遺伝学的検査を希望したため実施したところ,BRCA2に病的バリアントを認めた.HBOCにおける卵巣腫瘍としてSBTは非常にまれだが,SBT症例においてもBRCA1/2病的バリアント保持者が一定の頻度で存在するとの報告が複数あり,卵巣境界悪性腫瘍に対しても,HBOCに関する遺伝診療の観点に基づいた介入が必要と考える.