日本理科教育学会研究紀要
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「振り子の運動」に関する学習者の認知の発達的変容と学校理科学習の効果
隅田 学
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1995 年 36 巻 1 号 p. 17-28

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抄録

本研究の目的は,幼稚園児から大学院生までの幅広い被験者層における振り子の運動に関する認知の発達的変容と学校理科学習の効果を明らかにすることにある。調査では,幼稚園の5歳児から理系大学院生まで659名を対象として,普通の振り子の振れ幅に関する課題,振れの中心に棒が入った振れ幅課題,そして普通の振り子の振れる速さ課題といった三種類の振り子の運動を取り上げて,幼稚園児には面接方式で,それ以外の被験者には多肢選択法方式の質問紙で応答させた。調査結果をおもりの重さの違いと振り子の運動の関係という観点から解析することによって,次の点が明らかとなった。(1) 幼稚園の5歳児の大多数が,振り子の運動に関して,おもりが軽い方が振れ幅が大きく,おもりの動く速さも速いという認知をしているが,小学4年生までにおもりが重い方が振れ幅が大きい、おもりが重い方が振れる速さが速いという認知へと発達的に変容する。(2) 学校理科学習による教育的介入の効果として,小学校6年以降,科学的に妥当な応答タイプの適用頻度は上昇するが,振れ幅課題と速さ課題とでは学校理科学習の効果が異なり,振れ幅課題の方が正答率が高い。(3) 学校理科による教育的介入の始まる小学校6年以降の学年の学習者には,おもりが重い方が振れる速さが速いという理解を背景として,振れ幅はおもりの重さに関係ないと応答する傾向が現れる。これらの結果を踏まえて,物理現象に関する学習者の認知的発達と,それが理科教育に対して持つ意味を考察する。

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© 1995 一般社団法人日本理科教育学会
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