日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「ノックアウトマウスの創薬への応用」
COX-2阻害薬,腸ポリープ症抑制,そして癌の化学予防
大島 正伸武藤 誠
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キーワード: COX-2, NSAIDs, APC, 化学予防, 血管新生
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2002 年 120 巻 5 号 p. 276-284

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抄録

化学発癌物質誘発ラットモデルを用いた実験により非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)が腸管の腫瘍細胞増殖を抑制することが示唆された.さらに大規模な疫学調査や,家族性大腸ポリープ症(FAP)患者における臨床例の報告などにより,NSAIDsが大腸癌の化学予防薬として有効であることが提唱された.NSAIDsの標的酵素はプロスタグランジン合成を行なうシクロオキシゲナーゼ(COX)である,COXには,生理機能として重要なプロスタグランジン合成に関わるCOX-1と,炎症や腫瘍組織で発現が誘導されるCOX-2のアイソフォームがある.家族性大腸ポリープ症のモデルであるApcΔ716マウスとCOX-2ノックアウトマウスを用いた遺伝学的手法による解析から,COX-2の発現誘導が腸管ポリープの発生および成長に重要な役割を果たすことが明らかとなった.続いて,COX-2選択的阻害薬がApcΔ716や他のApc変異マウスの腸管ポリープ発生を抑制することや,あるいは担癌マウスモデルでの癌細胞増殖を阻害することが数多く報告された.ポリープでのCOX-2の発現は腫瘍上皮細胞ではなく間質でのみ認められる.間質においてCOX-2依存的に産生されるプロスタグランジンがどのようにして腫瘍細胞増殖を亢進しているかについては不明な点が多い.しかし,少なくとも腫瘍組織内の血管新生を亢進していることがノックアウトマウスを用いた解析から明らかとなった.以上の研究結果は,COX-2阻害薬が腸管ポリープ発生の抑制と大腸癌の化学予防薬として有用であることを示している.また,さまざまなモデルマウスを用いた解析により,COX-2阻害薬は腸管以外の組織由来の腫瘍に対しても増殖抑制効果があることが明らかとなった.本稿では,NSAIDsやCOX-2阻害薬による腫瘍抑制効果について,これまでに報告された多くの動物実験を概説する.

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