日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
120 巻, 5 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
ミニ総説号「ノックアウトマウスの創薬への応用」
  • 大島 正伸, 武藤 誠
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 5 号 p. 276-284
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    化学発癌物質誘発ラットモデルを用いた実験により非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)が腸管の腫瘍細胞増殖を抑制することが示唆された.さらに大規模な疫学調査や,家族性大腸ポリープ症(FAP)患者における臨床例の報告などにより,NSAIDsが大腸癌の化学予防薬として有効であることが提唱された.NSAIDsの標的酵素はプロスタグランジン合成を行なうシクロオキシゲナーゼ(COX)である,COXには,生理機能として重要なプロスタグランジン合成に関わるCOX-1と,炎症や腫瘍組織で発現が誘導されるCOX-2のアイソフォームがある.家族性大腸ポリープ症のモデルであるApcΔ716マウスとCOX-2ノックアウトマウスを用いた遺伝学的手法による解析から,COX-2の発現誘導が腸管ポリープの発生および成長に重要な役割を果たすことが明らかとなった.続いて,COX-2選択的阻害薬がApcΔ716や他のApc変異マウスの腸管ポリープ発生を抑制することや,あるいは担癌マウスモデルでの癌細胞増殖を阻害することが数多く報告された.ポリープでのCOX-2の発現は腫瘍上皮細胞ではなく間質でのみ認められる.間質においてCOX-2依存的に産生されるプロスタグランジンがどのようにして腫瘍細胞増殖を亢進しているかについては不明な点が多い.しかし,少なくとも腫瘍組織内の血管新生を亢進していることがノックアウトマウスを用いた解析から明らかとなった.以上の研究結果は,COX-2阻害薬が腸管ポリープ発生の抑制と大腸癌の化学予防薬として有用であることを示している.また,さまざまなモデルマウスを用いた解析により,COX-2阻害薬は腸管以外の組織由来の腫瘍に対しても増殖抑制効果があることが明らかとなった.本稿では,NSAIDsやCOX-2阻害薬による腫瘍抑制効果について,これまでに報告された多くの動物実験を概説する.
  • 渋谷 正史
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 5 号 p. 285-294
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    近年,血管新生因子やその受容体の生化学的,分子生物学的解析が著しく進み,それらの遺伝子に対するノックアウトマウスも多数作成された.これらのマウスは個体レベルの血管新生に関する制御機構を理解する上で有用であるばかりでなく,血管新生阻害薬の開発にも極めて重要な示唆を与えている.さらに,特定の遺伝子を破壊してもマウスが致死性でない場合には,そのようなマウスを用いて腫瘍血管新生の低下の有無を直接観察することができる.これらの研究から,VEGF-A,-C,-D,VEGFR-2,VEGFR-1,-3などが重要な標的として浮かびあがってきた.さらに,アンジオポエチン,MMPとその制御因子なども標的の候補として研究が進んでいる.今後はさらに有用な標的遺伝子が見い出される可能性も高く,研究の進展が期待される.
  • 中辻 憲夫
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 5 号 p. 295-302
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    無制限の増殖能とともにあらゆる種類の細胞種に分化可能な胚性幹細胞(ES細胞)は,これまでノックアウトマウス作成などの基礎研究において使われてきたが,ヒトES細胞の出現によって再生医学研究への応用が期待されている.ヒトES細胞株の樹立は無尽蔵なヒト組織細胞の供給源として医学や創薬研究に利用できるとともに,様々な難治疾患に対する細胞治療の可能性を実現しようとしている.マウスES細胞では,LIF添加によって安定した幹細胞維持と増殖が可能である.しかしながら,霊長類ES細胞の場合はLIF添加の効果はなく,安定に増殖維持するための方法確立が求められている.我々は実験動物として使われるカニクイザルの胚盤胞からES細胞株の樹立に成功した.マウスES細胞と異なる点が多く,安定に未分化幹細胞を維持し増殖させるためには,細かな培養方法の検討が必要であった.その結果,我々の研究室では現在安定したサルES細胞株の継代と増殖が可能になり,1年以上増殖を続けているES細胞株も存在している.このようなサルES細胞は,再生医学を目指した様々な基礎研究に利用されるとともに,疾患モデルサルへの同種異系間の細胞移植治療のモデル系として,前臨床研究の重要なツールになると思われる.今後重要となる研究は,細胞や核の再プログラム化である.これを利用すれば,免疫拒絶を回避できる患者適合型の幹細胞を作り出すことも可能になるはずである.
  • 岩倉 洋一郎
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 5 号 p. 303-313
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    関節リウマチは世界人口の1%が罹患するきわめて重要な疾患である.その病因,発症機構はまだ完全には明らかにされていないが,自己免疫疾患と考えられ,関節滑膜における慢性的な炎症の結果,関節の破壊が起こる.関節で炎症性サイトカインの発現亢進が見られることが1つの特徴である.我々はヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)のtax遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製し,関節リウマチによく似た関節炎を自然発症することを先に報告した.このマウスの関節では多くのサイトカインの発現が亢進していたが,これはTaxの転写促進活性によるものと考えられる.これらのサイトカインのうち,特に発現の高かったIL-1の役割を調べるために,IL-1ノックアウト(KO)マウスを作製したところ,KOマウスでは関節炎の発症が約1/2に抑制されることが分かった.この結果はIL-1が病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆する.そこで,IL-1シグナルが過剰に入ることが予想されるIL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)KOマウスを作製したところ,このマウスがやはり自己免疫になり,関節炎を自然発症することを見いだした.IL-1の免疫系に対する影響を調べたところ,IL-1はT細胞上にCD40LやOX40などの副シグナル分子を誘導し,T細胞を活性化することが分かった.このため,IL-1KOマウスではT細胞の活性化が障害されており,抗体産生やサイトカイン産生が低下する.また,抗CD40L抗体や抗OX40抗体はIL-1RaKOマウスの関節炎を抑制することが分かった.これらの所見からIL-1/IL-1Raシステムが免疫系の恒常性の維持に重要な役割を果たしており,IL-1の過剰シグナルは自己免疫を引き起こすことが示された.本稿ではこれらの研究の創薬への応用の可能性についても触れたい.
総説
  • 土肥 敏博, 北山 滋雄, 熊谷 圭, 橋本 亘, 森田 克也
    原稿種別: 総説
    2002 年 120 巻 5 号 p. 315-326
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    神経終末から放出されたノルエピネフリン(NE),ドパミン(DA)およびセロトニン(5-HT)は,それぞれに固有の細胞膜トランスポーター(NET,DAT,SERT)によりシナプス間隙から速やかに除去されて神経伝達が終息される.さらにこれらのモノアミンはシナプス小胞トランスポーター(VMAT)によりシナプス小胞内に輸送·貯蔵され再利用される.NET,DAT,SERTはNa+,Cl依存性神経伝達物質トランスポーター遺伝子ファミリーに,VMATはH+依存性トランスポーター遺伝子ファミリーに属する.また選択的RNAスプライシングにより生じるアイソフォームが存在するものもある.NET,DAT,SERTは細胞膜を12回貫通し,細胞内にN末端とC末端が存在する分子構造を有すると予想される.近年,トランスポーターの発現は種々の調節機構により誘導性に制御されていると考えられるようになった.例えば,kinase/phosphataseの活性化によりその輸送活性あるいは発現が修飾され,トランスポータータンパク質あるいは相互作用するタンパク質のリン酸化による調節が考えられている.また,トランスポーターの発現は神経伝達物質それ自身の輸送活性に応じて調節されることやアンフェタミンなどの輸送基質あるいはコカインなどの取り込み阻害薬による薬物性にも調節されることが示唆されている.NET,DAT,SERTは抗うつ薬を始め種々の薬物の標的分子であることから,うつ病を始めとする様々な中枢神経疾患との関わりが調べられてきた.近年,遺伝子の解析からもその関連性が示唆されてきている.これまで抗うつ薬は必ずしも理論に基づき開発されたものばかりではなかったが,これらトランスポーターのcDNAを用いた発現系により,これまで検証できなかった多くの問題が分子レベルで詳細に検討されるようになった.その結果,多くの精神作用薬のプロフィールが明らかになったばかりでなく,より優れた,理論的に裏打ちされた多様な化学構造の新規治療薬の開発が可能となった.
  • 佐藤 拓己
    原稿種別: 総説
    2002 年 120 巻 5 号 p. 327-334
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    神経栄養因子は神経細胞の分化を促進し,その生存を維持する作用のある一群のタンパク質である.神経栄養因子は成人の脳においても,神経細胞の生存を維持するのみではなく,神経回路を保全/修復し,高次神経機能を再生させる作用があることが期待される.しかし実体がタンパク質であるために個体レベルで用いるのは困難である.そこで低分子化合物に神経栄養因子様作用を持たせることが試みられている.中枢ニューロンにも適用可能な神経栄養因子様低分子プローブの条件としては,1)中枢ニューロンの生存維持作用を有すること,2)中枢ニューロンの神経突起伸展/再生作用を有すること,3)脳血液関門(BBB)を通過すること,4)化学合成が容易であることである.世界中で数種類の化合物が報告されている.主なものは以下の3つの低分子化合物ある.1)スタウロスポリン様アルカロイド,2)イムノフィリンリガンド,3)シクロペンテエノン型プロスタグランジン(PG)である.KT7515/CEP1347,GPI1046及びNEPP11はそれぞれグループ1),2),3)の代表的な低分子プローブである.我々が創製したNEPP11は核内受容体との結合を介して,種々の遺伝子の発現を誘導する.NEPP11は種々のストレスタンパク質の誘導を介して神経栄養因子様作用を発現することが明らかになり,ニューロンにおけるストレスタンパク質の新たな生理作用が注目されている.例えばNEPP11のニューロン生存維持作用の発現には,ヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)の誘導が必要であることがわかった.HO-1誘導はニューロンにおいてストレス耐性を獲得するための基本的なメカニズムであることから,NEPP11はpost-mitoticなニューロンにおいてHO-1誘導の生理的な意義を探るための低分子プローブとして注目される.本総説では神経栄養因子様低分子プローブを概観し,それを可能にする分子基盤について述べる.
  • 丸山 徹, 伊東 裕幸
    原稿種別: 総説
    2002 年 120 巻 5 号 p. 335-342
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    抗不整脈薬のVaughan-Williams分類におけるIII群薬は,従来興奮伝導速度を変化させずに不応期を延長させることによって抗不整脈作用を発現するとされていた.しかし近年,個々のIII群薬に変伝導作用があることが次第に明らかになりつつある.代表的なIII群薬であるアミオダロンは急性投与では明らかな,慢性投与でも軽度の陰性変伝導作用を示すが,能動的または受動的な伝導速度の規定因子に対する作用は両者で異なる.またソタロールも好気的条件下では明らかな変伝導作用は認めないとする報告が多いが,嫌気的条件下では抑制された心筋細胞間の電気的結合を正常化することで陽性変伝導作用が期待される.さらに純粋なIII群薬であるニフェカラントやドフェチリドは定常興奮に対する変伝導作用はないとされるものの,先行興奮の不応期を延長して早期興奮に対する強さ-間隔曲線を右上方へシフトさせることによって,早期興奮に対してみかけ上の陽性変伝導作用を示す可能性が示唆される.これは伝導遅延をともなう早期興奮が興奮旋回性不整脈の引き金になることを考慮すれば重要な所見である.今後III群薬の様々な変伝導作用がさらに解明されれば,新たな抗不整脈薬の開発につながり不整脈の薬物療法が大きく発展することが期待される.
新薬紹介総説
  • 鈴木 順, 錦邉 優
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 120 巻 5 号 p. 343-352
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    モンテルカストナトリウム(以下モンテルカスト,シングレア®錠·チュアブル錠)は,キノリン骨格を有する気管支喘息治療薬である.モンテルカストは,CysLT1受容体に対し,極めて高い親和性(モルモット肺膜標本,IC50=0.61±0.09 nM vs LTD4)を有し,その活性はヒト血清タンパクの影響を受けない(ヒト血清アルブミン存在下同標本,IC50=0.42±0.08 nM)という特徴がある.モンテルカストは,内活性を示すことなく選択的かつ競合的な拮抗作用(モルモット摘出気管,pA2=9.3 vs LTD4)を示した.本剤は,麻酔モルモットにおいてLTD4による気管収縮作用を抑制(ED50=0.001 mg/kg, iv)し,覚醒リスザルにおいて抗原誘発による即時型および遅発型の気道抵抗の上昇を著明に抑制した(有効用量0.1 mg/kg, po).さらに,モルモットおよびラットにおけるLTD4あるいは抗原により誘発される炎症に対し抑制作用が認められた.本剤はこれらの薬理学的特徴に加え,10 mg単回経口投与にて有効血中濃度が少なくとも24時間持続することから,1日1回経口投与で軽症~中等症患者の気管支喘息症状が改善可能であると考えられる.臨床試験において,本剤は,症状·呼吸機能改善効果の発現は速やかで,かつ長期にわたり有効性が持続することが示された.また,本剤は,気道炎症の抑制効果,運動誘発喘息に対する改善効果,ステロイド薬との併用効果を示した.長期試験を含めたいずれの臨床試験においても,副作用の発現率と程度にはプラセボと差がなかった.モンテルカスト1日1回の用法はコンプライアンスが良く,また,長期治療における効果の減弱を生じにくいことから,気管支喘息治療の第1選択薬として至適となるものと期待される.
  • 木村 雅昭, 三谷 博信, 磯村 八州男
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 120 巻 5 号 p. 353-360
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    バルサルタン(ディオバン®)は,ノバルティスファーマ社で合成された選択的AT1受容体拮抗薬である.AT1受容体に対する選択性が高く,昇圧因子として作用するAIIに対して競合的に拮抗し,持続的な降圧作用を示す.バルサルタンの降圧作用を,ナトリウム枯渇マーモセットを用いて覚醒下かつ無拘束下で検討すると,バルサルタンの経口投与は心拍数には影響をおよぼすことなく,用量依存的に平均血圧を低下させ,長時間にわたりその作用を持続した.2腎性片側狭窄(2K1C)型高血圧モデルラット,自然発症高血圧ラット(SHR)などの動物モデルにおいても,バルサルタンの単回投与および連続経口投与は用量に依存した持続的な降圧作用を示し,休薬時に血圧のリバウンド現象は観察されなかった.また,脳卒中易発症性SHRおよび急性虚血性心不全モデルラットにおいて,バルサルタンは高血圧に伴う血管肥厚,心肥大,腎障害の発症·進展を有意に抑制した.さらに,高血圧症治療における他剤との併用を考慮し,バルサルタンと利尿降圧薬またはACE阻害薬との併用効果を検討したところ,SHRにおいて,バルサルタンと利尿降圧薬との併用は,バルサルタン単独投与に比較して降圧増強効果を示した.また,ACE阻害薬との併用では,NO合成阻害薬を投与したSHRにおいて生存率の延長が認められた.軽症~中等症の本態性高血圧症患者を対象に実施した第II相臨床試験において,バルサルタンは良好な降圧効果と高い安全性を示した.さらに,併用による臨床的有用性について,利尿降圧薬またはカルシウム拮抗薬投与により十分な降圧効果の得られない軽症~中等症の本態性高血圧症患者に対して,バルサルタンの併用効果を検討したところ,併用による優れた降圧効果と高い安全性が示された.副作用症状は軽度~中等度であり,重篤なものはなかった.第III相臨床試験では,本態性高血圧症に対して,類薬と同等以上の有用な降圧薬であることが示された.以上,バルサルタンは高選択的AT1受容体拮抗作用により降圧作用を示す安全性および有効性にすぐれた薬剤であり,有用な高血圧症患者の治療薬として期待される.
feedback
Top