日本薬理学雑誌
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総説
ナトリウム過負荷誘発ミトコンドリア機能不全による心筋虚血/再灌流障害
田野中 浩一竹尾 聰
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2003 年 121 巻 5 号 p. 339-348

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抄録
心筋細胞のイオン組成は細胞内の環境を決定する重要な因子である.心臓の虚血/再灌流障害は,再灌流時のCa2+過負荷による心筋細胞壊死により誘発されると考えられている.このCa2+過負荷は虚血時の心筋細胞内でのNa+蓄積,すなわちNa+過負荷による再灌流時のNa+/Ca2+交換系を介したCa2+流入により引き起こされ,虚血/再灌流時の心筋細胞内でのイオン恒常性の破綻と考えられる.一方,虚血/再灌流時には心筋ミトコンドリアも障害を受ける.Ca2+過負荷時の細胞質Ca2+の上昇は,ミトコンドリアへのCa2+蓄積を誘発し,ミトコンドリア機能に非可逆的な障害を引き起こす.ミトコンドリアは生命活動を支えるために必須のエネルギーを産生するオルガネラで,ミトコンドリアからのエネルギー供給なしに心臓のポンプ機能は発揮されない.つまり再灌流時の心機能回復に心筋ミトコンドリアの機能保持は必要不可欠である.この様にCa2+過負荷が細胞に障害を誘発する機序は多くの研究者により報告されている.一方,虚血心筋ではNa+の蓄積,すなわちNa+過負荷が誘発されることも知られている.しかしながら,虚血心筋でのNa+過負荷がミトコンドリア機能に及ぼす作用については明らかにされていない.従来の知見では,虚血心筋でのNa+過負荷は再灌流時のCa2+過負荷を誘発させる駆動力としての役割しか知られていない.そこで本稿では新たな研究結果による虚血心筋のNa+過負荷に関与するNa+流入経路およびNa+過負荷が心筋ミトコンドリア機能に及ぼす作用について概説し,虚血心筋保護の機序について考察する.
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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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