抄録
頻尿·尿失禁を来たす代表的疾患として過活動膀胱を取り上げ,その発症機序と薬物療法について解説した.脳血管障害のような脳幹より上位の障害では,大脳全体からの脳幹排尿中枢に対する抑制が利かなくなり過活動膀胱が発症する.一方,仙髄より上位が傷害される核上型脊髄障害では,閾値の低いC-線維神経を求心路とする脊髄反射路が新しく形成されることが,過活動膀胱の発症に関与している.この求心性C-線維神経はさらに,下部尿路閉塞(前立腺肥大症など)や膀胱知覚過敏症においても過活動膀胱の発症に関与することが指摘されている.以上の神経因性機序に加え,膀胱平滑筋側にも興奮性が高まったり筋細胞間の結合が増強する変化が見られる.最も患者数が多いのにもかかわらず原因が特定されていない本態性(idiopathic)過活動膀胱においては,神経因性と筋因性の2つの機序が働いていると推定される.過活動膀胱の薬物療法として,抗コリン剤が古くから使用されてきた.口渇や便秘などの副作用を伴なうものの,過活動膀胱の発症にコリン作動性の機序が関与していることから,抗コリン剤は現在も有効な治療薬である.最近,新薬の開発において,膀胱の求心性C-線維ニューロンが注目されている.このため,ニューロキニン(NK)受容体,プロスタグランディン受容体,ATP(P2X3)受容体などが新しい薬物療法の標的となっている.また,ヒト膀胱にきわめて多く発現しているβ3受容体も有力な候補の一つである.