抄録
後天性(薬物誘発性)QT延長症候群を未然に防ぐため,創薬の早い段階でそのリスクを適確に評価することは重要である.QT延長作用を持つ薬物の大部分は遅延整流K+電流の速いコンポーネント(IKr)を通過させるHERG(human ether-a-go-go related gene)チャネルを抑制するものである.HERGチャネルが薬物によって抑制されやすい性質は,薬物がチャネルポアの内隙にトラップされやすいという,その特徴的なチャネル分子の三次元構造に起因するとされている.酵素的に単離した心筋細胞を用いてIKrに対する薬物の作用を検討する場合は,遅延整流K+電流の遅いコンポーネント(IKs)なども同時に記録されるため,その正確な評価が難しい.従ってHERGチャネルの発現系を用いることが多いが,アフリカツメガエルに発現させた場合薬物感受性が低下するため,HEK293細胞等の哺乳類培養細胞に発現させたものを用いることが望ましい.また,微小電極法により活動電位に対する作用を検討する場合は,モルモット乳頭筋標本やイヌPurkinje線維を用いることが多い.最終的には患者側のQT延長薬物への感受性に影響する諸因子を考慮しつつ,これらのin vitroでの細胞電気薬理学的評価の結果と,心電図QT間隔や単相活動電位記録などのin vivo評価系での結果と併せてQT延長の危険性を総合的に判断すべきであろう.