日本薬理学雑誌
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121 巻, 6 号
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ミニ総説号「薬物誘発性QT延長症候群回避のための薬理学的戦略」
  • 橋本 宗弘
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 6 号 p. 377-383
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    ヒト用医薬品による心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性を評価するためのガイドライン(ICH-S7B)は,2001年5月から討議が始まり,公開意見聴取のためのStep 2文書が2002年4月に開示され,収集されたコメントに基づきガイドラインの最終化に向けた改定作業が現在なされているところである.抗不整脈薬以外の薬剤がQT間隔の延長とそれに伴うtorsade de pointesを含む心室性頻拍不整脈の副作用を惹起する事例が報告され,非臨床試験評価法を定めることは医薬品開発の大きな課題である.本ガイドラインは,薬剤のQT間隔延長の評価について,日米欧3極共通の試験計画の基本的なあり方と指針を与えるためのもので,その基幹をなすものは,非臨床試験成績や被験物質の化学的/薬理学的クラス分類の情報に基づき実施されるIntegrated Risk Assessmentである.Integrated Risk Assessmentの結果は,安全閾を基にして推定されるevidence of riskの大きさとして表され,臨床試験計画や臨床試験成績の解釈に寄与する.しかしながら,本ガイドラインの扱う分野の科学は急速に発展を遂げており,これらコンセプトについては,現在各極で進められているプロジェクトチームによるデータ収集の結果を考察し,より確かな科学的根拠に基づいた内容として完成される予定である.本稿では,本ガイドライン案について概括し,今後の課題について述べる.
  • 中谷 晴昭
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 6 号 p. 384-392
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    後天性(薬物誘発性)QT延長症候群を未然に防ぐため,創薬の早い段階でそのリスクを適確に評価することは重要である.QT延長作用を持つ薬物の大部分は遅延整流K+電流の速いコンポーネント(IKr)を通過させるHERG(human ether-a-go-go related gene)チャネルを抑制するものである.HERGチャネルが薬物によって抑制されやすい性質は,薬物がチャネルポアの内隙にトラップされやすいという,その特徴的なチャネル分子の三次元構造に起因するとされている.酵素的に単離した心筋細胞を用いてIKrに対する薬物の作用を検討する場合は,遅延整流K+電流の遅いコンポーネント(IKs)なども同時に記録されるため,その正確な評価が難しい.従ってHERGチャネルの発現系を用いることが多いが,アフリカツメガエルに発現させた場合薬物感受性が低下するため,HEK293細胞等の哺乳類培養細胞に発現させたものを用いることが望ましい.また,微小電極法により活動電位に対する作用を検討する場合は,モルモット乳頭筋標本やイヌPurkinje線維を用いることが多い.最終的には患者側のQT延長薬物への感受性に影響する諸因子を考慮しつつ,これらのin vitroでの細胞電気薬理学的評価の結果と,心電図QT間隔や単相活動電位記録などのin vivo評価系での結果と併せてQT延長の危険性を総合的に判断すべきであろう.
  • 杉山 篤
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 6 号 p. 393-400
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    近年,抗不整脈薬以外の薬物が,時にQT間隔を延長し,Torsades de Pointes(TdP)といわれる致死性心室性不整脈を誘発することが報告されているので,このような性質を有する薬物の心臓電気薬理作用を比較検討した.まず,ハロセン麻酔犬に,クラスIII抗不整脈薬:ドフェチリド,ニフェカラント,アミオダロン,およびIKr電流を抑制する抗不整脈薬以外の薬物:シサプリド(消化管運動促進薬),アステミゾール(抗ヒスタミン薬),スルピリド(向精神薬),ハロペリドール(向精神薬),スパルフロキサシン(抗菌薬)の臨床1日量の1/10から10倍までを10分間で静注した.臨床1日量のアミオダロンは右室単相性活動電位持続時間(MAP90)および右室有効不応期(ERP)を延長したが,MAP90に比べてERPの延長が大きく活動電位終末相(TRP=MAP90−ERP)を短縮した.その他の薬物は臨床1日量の投与によりMAP90,ERP,TRPの全てを延長した.次に,慢性房室ブロック犬にクラスIII抗不整脈薬:セマチリド,ニフェカラント,アミオダロン,および抗不整脈薬以外の薬物:シサプリド,テルフェナジン(抗ヒスタミン薬),スルピリド,スパルフロキサシンの臨床1日量の10倍までを経口投与した.アミオダロンは,臨床量の10倍(30 mg/kg)を投与してもTdPを誘発しなかった.一方,アミオダロン以外の薬物は臨床1日量の1-10倍の投与により再現性をもってTdPを誘発した.以上のように,ハロセン麻酔犬と慢性房室ブロック犬の両実験モデルを併用することにより,薬物による2次性QT延長症候群の発生を正確に予想できる.特に活動電位終末相に対する延長作用は致死性不整脈の発生予知の有用な指標になると考えられた.
  • 堀江 稔
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 6 号 p. 401-407
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    QT延長症候群(LQTS)は,心電図上,著しいQT時間の延長と心臓突然死に繋がる多形性心室頻拍(torsade de pointes)を起こす疾患群であり,古くより家族性に発症することが知られていたが,近年,分子遺伝学あるいは細胞電気生理学の進歩の結果,心筋の興奮·伝導を担うイオンチャネル遺伝子の変異により,LQTSが惹起されることが解明された.一方,日常診療では,たとえば,薬剤性を含む2次性LQTSの患者に遭遇することが多い.このような症例の一部にも遺伝的背景が発見されるようになってきた.現在までに判明している種々の変異は,遺伝性LQTS関連遺伝子の全般にわたって発見されている.その機能解析では,チャネルへの障害の程度が軽いものも存在する.したがって2次性LQTSも一部はイオンチャネル病であることが理解された.本稿では,今日までに報告された種々の2次性LQTSにおける遺伝子異常について紹介し概説する.
総説
  • 川畑 篤史
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 6 号 p. 411-420
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    Protease-activated receptor(PAR)は特定のプロテアーゼによって特異的に活性化される三量体Gタンパクと共役した7回膜貫通型受容体である.現在までにクローニングされている4つのPARファミリーメンバーのうち,トリプシン,トリプターゼ,血液凝固第VIIa,Xa因子などによって活性化されるPAR-2(protease-activated receptor-2)は生体内に広く分布し,種々の機能の制御に関与している.消化器系では,PAR-2は胃粘膜保護,平滑筋運動制御,唾液腺および膵外分泌,腸におけるイオン輸送などに関与している.循環器系では,PAR-2は血管内皮に存在し,その活性化によりNOあるいは血管内皮由来過分極因子を介する弛緩反応を誘起し,血圧を低下させる.呼吸器系では,PAR-2は抗炎症的な面と炎症促進的な面を併せ持つようである.神経系では,PAR-2は特にカプサイシン感受性一次知覚神経に存在し痛みの情報伝達に関与している.このようにPAR-2は生体内において非常に多様な機能を有しており,創薬研究のための標的分子として注目されている.
  • 酒井 規雄, 白井 康仁, 斎藤 尚亮
    原稿種別: 総説
    2003 年 121 巻 6 号 p. 421-434
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    プロテインキナーゼC(PKC)は,10種類以上の分子種からなるファミリーを形成する.個々の分子種の特異的な役割を明らかにする目的で,PKC各分子種にgreen fluorescent protein(GFP)などの蛍光タンパク質を融合させて可視化しPKCのトランスロケーションを生細胞でリアルタイムに解析した.その結果PKCは,刺激特異的,分子種特異的に目的基質を認識しリン酸化する多様なターゲティング機構を有することが明らかになった.さらに,このPKCターゲティングの多様性がPKCの持つ多彩な機能の分子基盤になっていることが予想された.蛍光タンパク質融合PKCを用いたPKCトランスロケーションのライブイメージングは,PKC自身の機能解明ばかりでなく,PKCが関わる様々な細胞内情報伝達の新しい側面を見いだす上でも非常に有用な研究法であることが示された.現在,脳部位特異的にPKC-GFPを発現するトランスジェニックマウスを作製し,この研究手法を脳研究に生かすべく解析を行っている.
実験技術
  • 松井 秀樹, 富澤 一仁, 松下 正之
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 121 巻 6 号 p. 435-439
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    タンパク質導入法はProtein Transduction domain(PTD)と呼ばれるペプチドをタンパク質などの高分子に結合させることにより,目的のタンパク質を細胞内に導入する方法である.PTDのアミノ酸配列はHIVのTATタンパク質,HSVのVP-22タンパク質の細胞膜通過ドメインを用いたものが開発されてきた.最近,新しくいくつかのPTDが開発され,実験レベルあるいは臨床レベルで応用されつつある.私達は11個のアルギニン(11R)によるPTDが導入効率の面から優れている事を発見し,11Rを用いたタンパク質導入法と細胞内小器官などへの局在化による細胞内情報伝達制御法を開発している.この導入ドメインを用いてタンパク質のみでなく,様々な高分子を細胞内に導入できる事が明らかとなり,新たな実験ツールや臨床応用できる薬剤の開発が期待されている.
  • 高木 慶子, 竹尾 聰
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 121 巻 6 号 p. 440-446
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    脳梗塞は脳動脈が閉塞されるために脳組織への血液供給が途絶され,脳実質が壊死する病態である.日本では罹患率が高く,脳梗塞後の後遺症は社会的問題にもなっている.この背景を鑑みると脳梗塞疾病の病態解明や治療薬の開発にはヒト病態類似の動物モデルの確立が必要である.しかし,臨床上高頻度に発生する虚血性脳血管障害で誘発される多発性梗塞を模倣したモデルは少ない.マイクロスフェア塞栓により誘発される脳虚血病態は血管閉塞機序の点からも多発性梗塞などの慢性的脳虚血障害に類似したところが多いと考えられ,その有用性が期待される.マイクロスフェア塞栓モデルの作製方法は現在までのところ数カ所の研究機関から報告されている(1~3).しかし,この作製方法はかなり高度な技術を必要とするにもかかわらず,その詳細な手技やモデルの成功率,誘発された病態変化に関する知見等はほとんど得られていない.当研究室ではその点を考慮しマイクロスフェア塞栓モデルの作製方法を習熟し,塞栓後の病態変化を観察した.今回,我々が試行したモデル作製手技を用いた塞栓後のモデル成功率は約82%であった.本モデルの塞栓後の組織学的変化は3日目には大脳皮質,海馬,線条体で梗塞巣が観察された.また,塞栓後の病態変化は持続的脳血流量低下,脳組織エネルギー産生障害,脳組織アセチルコリン(ACh)およびモノアミン量の減少,脳組織抑制性および興奮性アミノ酸量低下などであった.これらはヒトで認められる重篤な脳虚血と類似の病態と考えられる.さらに.塞栓後7日目からの高次中枢機能の低下が長期間持続することも明らかとなった.以上の結果は本モデルが重篤な組織学的,生化学的,機能学的病態を中心とした不可逆的障害を発生していることを裏付けるものである.
新薬紹介総説
  • 保坂 雅喜
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 121 巻 6 号 p. 447-456
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/05/29
    ジャーナル フリー
    ガチフロキサシン(ガチフロ錠100 mg)は,キノロン環8位にメトキシ基を有する新規キノロン系抗菌薬であり,2002年4月製造承認を得,同年6月に発売された.本剤はグラム陽性および陰性菌,嫌気性菌および非定型菌に対し幅広い抗菌スペクトルを有し,その抗菌力は類薬と比較し特にペニシリン耐性菌を含む肺炎球菌,マイコプラズマ,クラミジアなどの呼吸器感染症の起炎菌に対し優れている.本剤は肺炎球菌およびブドウ球菌のII型トポイソメレースであるDNAジャイレースおよびトポイソメレースIVを強力にかつ菌体内で同程度(dual inhibition)に阻害することにより,強い抗菌活性の発現と耐性化の軽減に結びついていると考えられる.本剤はヒトにおいて経口投与によりほぼ完全に吸収された後,優れた組織移行性と7-8時間の半減期を示しながら,その大部分が未変化体として尿中に排泄される.本剤の有効性は,呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする各種感染症において認められた.細菌学的効果(菌消失率)は,グラム陽性菌で94.1%,グラム陰性菌で90.7%,また嫌気性菌では97.9%であり,特に肺炎球菌の消失率は98.7%と高かった.ガチフロキサシンの臨床試験全体での成績は有効率が91.1%,菌消失率が93.3%であった.これらの臨床成績は,本剤の強い抗菌力と優れた薬物動態学的特性(pharmacokinetics/pharmacodynamics)が反映された結果と考えられる.
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