近年,抗不整脈薬以外の薬物が,時にQT間隔を延長し,Torsades de Pointes(TdP)といわれる致死性心室性不整脈を誘発することが報告されているので,このような性質を有する薬物の心臓電気薬理作用を比較検討した.まず,ハロセン麻酔犬に,クラスIII抗不整脈薬:ドフェチリド,ニフェカラント,アミオダロン,およびI
Kr電流を抑制する抗不整脈薬以外の薬物:シサプリド(消化管運動促進薬),アステミゾール(抗ヒスタミン薬),スルピリド(向精神薬),ハロペリドール(向精神薬),スパルフロキサシン(抗菌薬)の臨床1日量の1/10から10倍までを10分間で静注した.臨床1日量のアミオダロンは右室単相性活動電位持続時間(MAP
90)および右室有効不応期(ERP)を延長したが,MAP
90に比べてERPの延長が大きく活動電位終末相(TRP=MAP
90−ERP)を短縮した.その他の薬物は臨床1日量の投与によりMAP
90,ERP,TRPの全てを延長した.次に,慢性房室ブロック犬にクラスIII抗不整脈薬:セマチリド,ニフェカラント,アミオダロン,および抗不整脈薬以外の薬物:シサプリド,テルフェナジン(抗ヒスタミン薬),スルピリド,スパルフロキサシンの臨床1日量の10倍までを経口投与した.アミオダロンは,臨床量の10倍(30 mg/kg)を投与してもTdPを誘発しなかった.一方,アミオダロン以外の薬物は臨床1日量の1-10倍の投与により再現性をもってTdPを誘発した.以上のように,ハロセン麻酔犬と慢性房室ブロック犬の両実験モデルを併用することにより,薬物による2次性QT延長症候群の発生を正確に予想できる.特に活動電位終末相に対する延長作用は致死性不整脈の発生予知の有用な指標になると考えられた.
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