日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「心不全発症の分子的理解と治療について」
心不全の重症化機構−その新しい概念−
河田 登美枝仲澤 幹雄豊岡 照彦
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2004 年 123 巻 2 号 p. 55-62

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抄録

近年,心不全患者は増加しているが,その重症化機構は未だ解明されていない.我々はその機序を先天性と後天性の2つの心不全モデルを用いて検討した.前者として初期から拡張型心筋症を呈するTO-2系ハムスター(TO-2),後者としてイソプレノール(Isp)過量投与ラットを用いた.TO-2ではジストロフィン(Dys)関連タンパク複合体(Dys-Related Protein, DRP)の一つのδ-サルコグリカン(δ-SG)遺伝子が欠損している事を筆者等は同定した.δ-SG遺伝子変異はヒトの拡張型心筋症でも報告されている.DRPの正確な機能は未だ明確ではないが,収縮期の細胞膜の過剰な膨隆を防いで細胞膜の安定性を保つと考えられている.TO-2の心血行動態を経時的に測定し,Dysの組織学的および生化学的変化を観察した.その結果,心筋のDysは加齢と共に細胞膜から細胞質にトランスロケーション(移行)し,細胞膜透過性も増加した.Western blottingの結果,加齢に伴いDysは加水分解され,断片化した.これらの変化は心機能の悪化と一致していた.TO-2に正常配列のδ-SG遺伝子をin vivoで発現させた結果,心機能が改善し,動物の生存率も向上した.δ-SGが発現した細胞では細胞膜の透過性亢進も抑制された.さらにIspを過量投与し急性心不全を起こさせたラットの心筋細胞でもDysの移行と断片化が明瞭に認められ,細胞膜透過性も増加した.一方,δ-SGは変化しなかった.これらの結果は,先天性および後天性心不全とも心不全の進行に伴い心筋細胞膜直下のDysが断片化され,細胞質に移行した結果,細胞膜の安定性は損なわれ,膜透過性が亢進した事が示唆される.以上の事から筆者等は「筋ジストロフィー様の変性が心筋細胞に選択的におこり,その結果心不全が進展する」という作業仮説を提唱する.

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