日本薬理学雑誌
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123 巻 , 2 号
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ミニ総説号「心不全発症の分子的理解と治療について」
  • 河田 登美枝, 仲澤 幹雄, 豊岡 照彦
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 2 号 p. 55-62
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    近年,心不全患者は増加しているが,その重症化機構は未だ解明されていない.我々はその機序を先天性と後天性の2つの心不全モデルを用いて検討した.前者として初期から拡張型心筋症を呈するTO-2系ハムスター(TO-2),後者としてイソプレノール(Isp)過量投与ラットを用いた.TO-2ではジストロフィン(Dys)関連タンパク複合体(Dys-Related Protein, DRP)の一つのδ-サルコグリカン(δ-SG)遺伝子が欠損している事を筆者等は同定した.δ-SG遺伝子変異はヒトの拡張型心筋症でも報告されている.DRPの正確な機能は未だ明確ではないが,収縮期の細胞膜の過剰な膨隆を防いで細胞膜の安定性を保つと考えられている.TO-2の心血行動態を経時的に測定し,Dysの組織学的および生化学的変化を観察した.その結果,心筋のDysは加齢と共に細胞膜から細胞質にトランスロケーション(移行)し,細胞膜透過性も増加した.Western blottingの結果,加齢に伴いDysは加水分解され,断片化した.これらの変化は心機能の悪化と一致していた.TO-2に正常配列のδ-SG遺伝子をin vivoで発現させた結果,心機能が改善し,動物の生存率も向上した.δ-SGが発現した細胞では細胞膜の透過性亢進も抑制された.さらにIspを過量投与し急性心不全を起こさせたラットの心筋細胞でもDysの移行と断片化が明瞭に認められ,細胞膜透過性も増加した.一方,δ-SGは変化しなかった.これらの結果は,先天性および後天性心不全とも心不全の進行に伴い心筋細胞膜直下のDysが断片化され,細胞質に移行した結果,細胞膜の安定性は損なわれ,膜透過性が亢進した事が示唆される.以上の事から筆者等は「筋ジストロフィー様の変性が心筋細胞に選択的におこり,その結果心不全が進展する」という作業仮説を提唱する.
  • 小玉 誠, 太刀川 仁, 柏村 健, 林 学, 吉田 剛, 塙 晴雄, 相澤 義房, 仲澤 幹雄, 渡辺 賢一
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 2 号 p. 63-70
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    慢性心不全では神経体液因子と機械的負荷によって徐々に心室リモデリングと心機能障害が進行してゆく.このため慢性心不全では,基礎心疾患の治療が最も重要であるが,次いで心室リモデリングの予防と是正が主たる治療目標となる.心室リモデリングを引き起こす神経体液因子としてはカテコラミン,アンジオテンシンII,アルドステロン,サイトカイン,過酸化物,自己抗体などが知られている.これらの神経体液因子の抑制によって心室リモデリングが予防できるか否かを,ラット心筋炎後拡張型心筋症モデルを用いて検討した.検討した薬物はアンジオテンシン変換酵素阻害薬(quinapril,imidapril,benazepril),アンジオテンシン受容体拮抗薬(valsartan,candesartan,TA606)とamiodaroneである.心筋炎の急性期を生存しえたラットに第28日から第70日まで薬物を投与し,血行動態,病理所見,各種mRNA発現を検討した.これらの薬物はいずれも血行動態と心機能を改善し,心筋線維化を抑制し,心房性利尿ホルモンとコラーゲンのmRNA発現を抑制した.アンジオテンシン変換酵素阻害薬はアンジオテンシン受容体拮抗薬に比べ心室リモデリング抑制効果が強かった.慢性心不全の治療には神経体液因子を幅広くかつ強力に抑制することが重要と考えられる.
  • 田野中 浩一, 都賀 稚香, 竹尾 聰
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 2 号 p. 71-76
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    細胞あるいは組織が様々なストレスに暴露されると,ストレスタンパクと呼ばれる特殊なタンパクの合成が促進される.熱ショックタンパクはストレスタンパクの一種である.熱ショックタンパクの中でもHsp72は,心筋虚血/再灌流障害に対する心筋細胞の耐性を上昇させ,梗塞巣拡大阻止や再灌流時の心機能回復を促進させる効果が知られている.これらの知見は正常動物の心筋細胞にHsp72を予め誘導,あるいはHsp72を過剰発現させたトランスジェニックマウスを用いた実験結果によるものである.Hsp72がストレスによる障害から心筋細胞を保護する細胞防御機構で重要な役割を演ずることは多くの研究者により認められるところであるが,病態下での心筋組織のHsp72を含めたHsp70ファミリーのタンパク誘導能と,ストレス後の心機能の関係は明らかではない.そこで,本稿では心筋梗塞後の生存心筋組織でのHsp72およびHsp73誘導能について紹介し,病態下でのHsp70ファミリータンパクと心機能の関係を考察する.
  • 吉川 義朗, 高木 都
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 2 号 p. 77-86
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    自然発症II型糖尿病(DM)と,甲状腺機能低下症における慢性不全心モデルと高濃度Ca2+冠状動脈注入によるCa2+過負荷急性不全心,および虚血再灌流傷害による急性不全心モデルに対して,血液交叉灌流摘出心標本を用いて心力学的·エネルギー学的検討を行った.DM不全心では弛緩速度が有意に遅く,1分間当たりの興奮収縮連関における総Ca2+ハンドリングに要する心筋酸素消費量が有意に減少していた.また甲状腺機能低下症不全心においては,収縮機能·拡張機能ともに低下していた.1心拍当たりの興奮収縮連関における総Ca2+ハンドリングに要する心筋酸素消費量(VO2)が有意に減少していた.また,DM,甲状腺機能低下症不全心では筋小胞体のCa2+ ATPase(SERCA2)タンパクの発現量が減少していた.高濃度Ca2+冠状動脈注入によるCa2+過負荷不全心,虚血再灌流不全心では収縮機能の低下とVO2-収縮期圧容積面積(PVA)直線関係のVO2切片の低下がみられた.このことは,1心拍当たりの興奮収縮連関における総Ca2+ハンドリングに要するVO2が有意に減少していることを示す.またカルパインの活性化により細胞骨格タンパクであるα-フォドリンが分解され,収縮機能不全が起こった.カルパイン阻害薬により収縮機能不全とα-フォドリン分解が抑制された.急性および慢性不全心における総Ca2+ハンドリングVO2の低下は,主にSERCA2の発現低下とカルパインの活性化による膜タンパクα-フォドリンの分解によって生じたCa2+ハンドリング障害に起因していると考えられる.
  • 草刈 洋一郎, 平野 周太, 本郷 賢一, 中山 博之, 大津 欣也, 栗原 敏
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    正常の心臓は律動的な収縮·弛緩を繰り返し,全身に絶え間なく血液を送り出している.これは,細胞内Ca2+-handlingを中心とした興奮収縮連関が規則正しく行われている結果である.一方で興奮収縮連関が破綻すると,収縮不全や拡張不全が招来されることが明らかになってきた.心筋細胞内Ca2+handlingの調節には多くのタンパク質が関わっているが,中でも筋小胞体のCa2+ポンプであるSERCA2a(心筋筋小胞体Ca2+-ATPase)が中心的な役割を果たしている.近年,分子生物学的手法を用いて,SERCA2aを心筋に選択的に過剰発現させると,心肥大や心不全になりにくいことが指摘されている.しかし,これまでの遺伝子変異動物を用いた研究では主として慢性心不全に関する研究は多いが,急激に起こる心機能の低下の原因に関する研究は少ない.そこで,今回我々は,SERCA2a選択的過剰発現心筋を用いて,急性の収縮不全や拡張不全を起こす病態時に,SERCA2aの選択的機能亢進により細胞内Ca2+-handlingと収縮調節がどのような影響を受けるのかについて調べた.急性収縮不全をきたす病態として,呼吸性(CO2)アシドーシスを用いた.アシドーシスならびにアシドーシスからの回復時における細胞内Ca2+と収縮張力を,SERCA2a過剰発現心筋と正常心筋とで比較した.アシドーシス時の収縮抑制に対しても,またアシドーシスからの回復時の収縮維持に関してもSERCA2a過剰発現心筋は正常心筋よりも収縮低下が抑制された.この結果は虚血性心疾患の初期などでおこるアシドーシスによる収縮不全に対して,SERCA2aの選択的発現増加による細胞内Ca2+-handlingの機能亢進が有用であることを示唆している.
受賞者講演
  • 南 雅文
    原稿種別: 受賞者講演
    2004 年 123 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    筆者らはκおよびµオピオイド受容体cDNAのクローニングを起点として,オピオイド受容体に関する分子薬理学的研究を行ってきた.まず,遺伝子工学的手法により作製した種々のキメラ受容体および点変異導入型受容体を用い,受容体サブタイプ選択性に関わる受容体構造の研究を行い,µ選択的アゴニストであるDAMGOが,第1細胞外ループと第2膜貫通部位の境界領域に存在するµ受容体のアスパラギン残基(µN127)とそれに対応するδ受容体のリジン残基(δK108)の僅か1残基の相違によりµ/δ間を識別していること,µ/κ間識別には,第3細胞外ループと第6および第7膜貫通部位との境界領域に存在する4アミノ酸残基が重要であることを明らかにした.また,クローン化µ,δ,κ受容体を発現する細胞株を樹立し,それら細胞株を用いて,拮抗性鎮痛薬やジヒドロエトルフィン,KT-90,TRK-820などのオピオイド作動薬の薬理学的性質を明らかにした.さらに,脳,脊髄および後根神経節でのオピオイド受容体mRNAの発現分布を明らかにするとともに,一次感覚神経におけるµ,δ,κ受容体mRNAと痛覚情報伝達物質サブスタンスPの前駆体mRNAとの共存を調べ,サブスタンスP産生細胞の大部分がµ受容体を発現しているが,それと比較し,δあるいはκ受容体を発現しているサブスタンスP産生細胞は少ないことを示した.最近では,痛みにより惹起される不快·不安などの負の情動反応の分子機構に関する研究を行い,ホルマリンによる持続性疼痛により扁桃体基底外側核でのグルタミン酸遊離が増加しNMDA受容体を介した神経情報伝達が亢進することにより嫌悪反応,すなわち,負の情動反応が惹起されること,扁桃体基底外側核内に投与されたモルヒネは,グルタミン酸作動性神経にシナプス前性に作用しグルタミン酸遊離を抑制することによりこの負の情動反応を抑制することを明らかにしている.今後は,そのようなオピオイドの情動反応に対する作用の分子機構の解明を糸口に,痛みによって惹起される負の情動反応の神経機構と物質的基盤の解明に取り組んでいきたい.
総説
  • 兼松 隆, 照沼 美穂, 後藤 英文, 倉谷 顕子, 平田 雅人
    原稿種別: 総説
    2004 年 123 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    イオンチャネル内蔵型のGABAA受容体は,γ-アミノ酪酸(GABA)をトランスミッターとし,脳における抑制性神経伝達をつかさどる主要な受容体である.この受容体の異常は,不眠·不安·緊張·けいれん·てんかんなどの様々な病態を引き起こすことが知られ,GABAA受容体の正常な働きは,複雑な脳·精神機能を形成する分子的基盤の重要な一角をなす.興奮性神経伝達機構の解析が分子レベルで進む中,抑制性神経伝達機構の解析は後手にまわっている感があった.しかし近年,GABAA受容体の相互作用分子が次々と発見され,それらの分子をとおしてGABAA受容体の機能制御機構を解析することで,その全体像が明らかになりつつある.本総説は,現在明らかになっているGABAA受容体の構築から分解系に至る分子メカニズムを「GABAA受容体の一生とそれを調節する分子達」と題してまとめたものである.我々は,新規イノシトール1,4,5-三リン酸結合性タンパク質(PRIP-1)研究を進める中,PRIP-1に相互作用する2つの分子を同定した.その一つがGABARAP(GABAA受容体の膜輸送に関係があるとされる分子)であったことから,PRIP-1欠損マウスを作製しGABAシグナリングの解析を行った.するとこのマウスは,GABAシグナリングに変調をきたした.また,PRIP-1はプロテインホスファターゼであるPP-1に結合し,この酵素活性を負に調節する.最近,PRIP-1がGABAA受容体自身のリン酸化/脱リン酸化反応をPP-1の酵素活性を制御することで調節することをみいだした.あわせてここで紹介する.今後,抑制性神経伝達機構解明研究が分子レベルで進めば,複雑な脳·精神機構の理解が深まり,多くの脳·精神疾患の新しい治療法や新薬の開発につながることが期待できる.
  • 加藤 明彦, 杉山 博之
    原稿種別: 総説
    2004 年 123 巻 2 号 p. 113-122
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/01/23
    ジャーナル フリー
    AMPA受容体は中枢神経系での興奮性シナプス伝達を司るグルタミン酸受容体の中でも最も中心的な役割を果たす受容体である.ここではAMPA受容体がどのように形成され,シナプス部位に輸送されたのち細胞表面に出現するのか,また記憶や学習の基礎過程であるシナプス可塑性がAMPA受容体の機能発現を介してどのように制御されるのかという問題について,分子レベルでの知見をまとめる.
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