抄録
消化管壁には,心臓の刺激伝導系に類似した,消化管運動ペースメーカー·刺激伝導系がある.これらを構成する細胞群は組織·細胞学的に多様性を示し,Interstitial cells of Cajal(ICC)と総称される.最近,c-Kit受容体型チロシンキナーゼ(CD117)が特異的マーカーとして認められ,さらに,c-Kitおよびそのリガンド遺伝子変異動物の解析により研究が急速に進んだ.臓器および組織特異的に分布する消化管壁の主要なc-Kit発現細胞は,食道から大腸に至るアウエルバッハ神経叢(myenteric plexus)に沿ったIC-MY,小腸深部筋神経叢(deep muscular plexus)のIC-DMP,大腸の粘膜下層と筋層の境界部(submuscular plexus)にあるIC-SMP,そして胃と大腸の筋層内(intramuscular)の神経線維に沿ったIC-IMである.いずれも,ギャップ結合により連結された細胞性ネットワークを形成しており,IC-MYおよびIC-SMPはペースメーカーとして,IC-IMおよびIC-DMPは腸管神経系とのシグナル伝達のインターフェイスとして働く.十数種類知られているギャップ結合タンパクであるコネキシン(Cx)のうち,消化管筋層では,胃·小腸の内輪走筋層の平滑筋細胞(SMC)間,およびICCを連結するギャップ結合において,Cx43がもっとも普遍的にみられる.このほか,IC-DMPではCx45が特異的に発現している.Cx45-LacZ遺伝子置換マウスの解析では,食道から大腸にいたる消化管壁に見られるすべてのSMCに陽性所見が得られ,胃·小腸の外縦走筋層や大腸筋層のSMCにも,従来の形態学的手法では同定できなかった小さいサイズのギャップ結合が存在する可能性が示唆されている.