日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
123 巻 , 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
ミニ総説号「消化管自動運動の制御機構」
  • 中村 桂一郎, 西井 清雅, 柴田 洋三郎
    2004 年 123 巻 3 号 p. 134-140
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    消化管壁には,心臓の刺激伝導系に類似した,消化管運動ペースメーカー·刺激伝導系がある.これらを構成する細胞群は組織·細胞学的に多様性を示し,Interstitial cells of Cajal(ICC)と総称される.最近,c-Kit受容体型チロシンキナーゼ(CD117)が特異的マーカーとして認められ,さらに,c-Kitおよびそのリガンド遺伝子変異動物の解析により研究が急速に進んだ.臓器および組織特異的に分布する消化管壁の主要なc-Kit発現細胞は,食道から大腸に至るアウエルバッハ神経叢(myenteric plexus)に沿ったIC-MY,小腸深部筋神経叢(deep muscular plexus)のIC-DMP,大腸の粘膜下層と筋層の境界部(submuscular plexus)にあるIC-SMP,そして胃と大腸の筋層内(intramuscular)の神経線維に沿ったIC-IMである.いずれも,ギャップ結合により連結された細胞性ネットワークを形成しており,IC-MYおよびIC-SMPはペースメーカーとして,IC-IMおよびIC-DMPは腸管神経系とのシグナル伝達のインターフェイスとして働く.十数種類知られているギャップ結合タンパクであるコネキシン(Cx)のうち,消化管筋層では,胃·小腸の内輪走筋層の平滑筋細胞(SMC)間,およびICCを連結するギャップ結合において,Cx43がもっとも普遍的にみられる.このほか,IC-DMPではCx45が特異的に発現している.Cx45-LacZ遺伝子置換マウスの解析では,食道から大腸にいたる消化管壁に見られるすべてのSMCに陽性所見が得られ,胃·小腸の外縦走筋層や大腸筋層のSMCにも,従来の形態学的手法では同定できなかった小さいサイズのギャップ結合が存在する可能性が示唆されている.
  • 中村 江里, 鬼頭 佳彦, 福田 裕康, 矢内 良昌, 橋谷 光, 山本 喜通, 鈴木 光
    2004 年 123 巻 3 号 p. 141-148
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    胃壁の筋間神経層に分布するカハールの間質細胞(ICC-MY)はミトコンドリアが豊富で,平滑筋とはギャップ結合しているので,歩調とり細胞であると考えられた.ICCで発生する歩調とり電位は早い立上がりの第1相とプラトー電位の第2相から成り,それぞれ電位依存性Ca2+透過性チャネル電流とCa2+活性型塩素チャネル電流により構成される.歩調とり電位は電気緊張的に輪走筋に伝わりslow waveを誘発させ,縦走筋に伝達しfollower potentialを形成する.輪走筋では歩調とり電位からの電気緊張電位の刺激により,細胞間間質細胞(ICC-IM)において単位電位unitary potentialが発生し,この電位の加重によりslow potentialが形成される.IP3受容体欠損マウスの胃ではslow waveが観られなかったので,自発活動発生にIP3が関与していることが推定された.slow potentialの解析から,自発活動発生にはミトコンドリアにおいてプロトンポンプ活性に伴い生じる電位勾配に起因したCa2+の出入りが関与しており,局所におけるCa2+の濃度変化がプロテインキナーゼCのようなCa2+感受性タンパク活性を介してIP3濃度を変化させ,小胞体からのCa2+遊離を律動的に起こさせると,細胞膜のCa2+感受性イオンチャネルが活性化され,電位変動を引き起こさせると考えられる.
  • 中山 晋介, 大矢 進, 今泉 祐治
    2004 年 123 巻 3 号 p. 149-154
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    胃腸管運動はslow waveといわわれるペースメーカー脱分極によって駆動される.この自発性活動のメカニズムを研究するため,私たちは細胞小塊(cell cluster)標本を開発した.私たちは,マウス小腸平滑筋層を酵素処理することによってcell clusterを作成し,数日間培養した.この標本は,平滑筋,壁内神経とc-Kit陽性細胞(Cajalの間質細胞:ICC)を含有し,自発性収縮·電気活動を保存している.そのペースメーカー電流の大きな特長は,ジハイドロピリジン(DHP)Ca拮抗薬抵抗性である.そのDHP Ca拮抗薬であるニフェジピン存在下で,cell cluster標本のc-Kit陽性細胞において自発性細胞内Caオシレーションが観察された.このICC細胞内Caオシレーションは,InsP3受容体,TRP familyチャネルの抑制薬だけでなく,ryanodine受容体へ作用する薬物によっても停止する.その結果から,細胞内Ca遊離チャネルと細胞外からのCa流入経路が協調することによって,胃腸管自発性活動を作り出すと考えられる.
  • 山澤 徳志子, 飯野 正光
    2004 年 123 巻 3 号 p. 155-162
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    電気的自発活動は,神経,心臓,消化管,子宮など様々な組織において観察される普遍的な現象である.消化管平滑筋の膜電位は,“slow wave”と呼ばれる周期的な変動を示し,自動能を作り出している.また,消化管には間質細胞(interstitial cells of Cajal: ICC)とよばれる特殊な細胞がネットワークを形成して筋層間に存在する.ICCが減少している突然変異マウスでは消化管の自動能が低下していることから,ICCが平滑筋の周期的な収縮を作り出すペースメーカー細胞と考えられている.しかしながらICCがどのように平滑筋細胞を制御するかについては不明な点が多い.本稿では消化管の自発活動について,平滑筋とICCの細胞内Ca2+シグナルに焦点をあてて概説する.
  • 徳冨 直史, 徳冨 芳子, 西 勝英
    2004 年 123 巻 3 号 p. 163-169
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    消化管の薬物収縮応答は,ペースメーカー細胞の活性に応じて誘発された平滑筋細胞の律動性収縮による調節を受けているようである.BALB/cマウスに抗c-Kitモノクローナル中和抗体(ACK2)を慢性的に投与すると,消化管自動能が障害され,さらにアセチルコリン,プロスタグランジンFおよびブラジキニンに対する薬物収縮応答が異常に増強された.組織化学的検討を行った結果,消化管内のc-kit陽性細胞数が,ACK2処置マウスでは激減し,その結果,律動性収縮が阻害されることが判明した.その消化管c-kit陽性細胞を初代培養すると,Ca2+依存性の律動性Cl電流を発生しており,同電流が消化管ペースメーカーの起源の一つであることが示唆された.そのようなACK2処置マウス腸管の律動性収縮の阻害と薬物収縮応答の異常な増強は,対照マウス消化管を25°Cの低温環境に置くことによって再現することができた.これらの結果から,c-kit陽性細胞からの律動的な興奮性入力によって誘発された平滑筋細胞の律動的興奮および収縮が薬物収縮応答の強さを調節していることが示唆された.
  • 藤田 秋一, 置塩 豊, 竹内 正吉, 畑 文明
    2004 年 123 巻 3 号 p. 170-178
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    消化管には外来性に刺激がなくとも自発運動がみられる.近年,この自発運動のペースメーカー細胞としてカハールの介在細胞(interstitial cells of Cajal: ICC)が注目されてきた.ペースメーカー細胞としてmyenteric plexus層およびsubmuscular plexus層に分布するICCが考えられており,ICCで発生した活動電位は隣接する平滑筋細胞へと伝えられ,消化管の自発運動が引き起こされると考えられている.またコリン作動性神経あるいはnitrergic神経を介する平滑筋の収縮あるいは弛緩反応は,神経から一旦ICCにそのシグナルが伝わり,その後ICCからgap junctionを介して平滑筋細胞へとシグナル伝達が起こると考えられている.これらの知見はICCを欠如したミュータントマウス(W/WVおよびSl/Sld)を用いた検討により,主に食道,胃および小腸において明らかにされてきた.W/WVマウスでさらに詳細に検討することにより,小腸ではペースメーカー細胞としての働きを担うと考えられてきたmyenteric plexus層のICC-MYが,神経を介する収縮·弛緩反応に深く関わっていることが判明した.さらに伸展反射によって引き起こされる上行性収縮および下行性弛緩はW/WVマウスの小腸ではみられないことから,ICC-MYが蠕動反射に関与する神経経路のシグナル伝達に関わることが示唆された.一方,ICC-MYおよび輪走筋層内に分布するICC-IMが完全に消失しているW/WVマウスの遠位結腸においては,伸展刺激などによる神経を介する収縮·弛緩反応はwild typeマウスと同様にみられた.従って遠位結腸においては,神経から平滑筋細胞への神経伝達にICC-MYおよびICC-IMが関与することはなさそうである.消化管運動調節へのICCの関与の度合い,あるいは関与の様式は消化管の部位により異なると考えられる.
受賞者講演
  • 藤井 健志
    2004 年 123 巻 3 号 p. 179-188
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    アセチルコリン(ACh)は最も古くから知られている神経伝達物質である.しかしながら,高感度かつ直接的な測定技術の開発により,様々な非神経性組織におけるAChの存在が判明し,局所作用性の細胞機能調節物質としての役割が徐々に明らかになってきた.リンパ球には,ACh,ACh合成酵素コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT),高親和性コリントランスポーター,ムスカリン性ACh受容体(mAChR)およびニコチン性ACh受容体(nAChR),アセチルコリンエステラーゼなど,神経系と同様にコリン作動系として不可欠な構成要素がすべて備わっている.T細胞受容体/CD3複合体を介するT細胞の活性化,T細胞と抗原提示細胞との接触,あるいはT細胞におけるアデニル酸シクラーゼ経路の活性化は,ChATおよびM5 mAChR遺伝子発現の増強をもたらし,T細胞のコリン作動系を活性化させる.ACh作用薬によるmAChR刺激は,主にM3およびM5 mAChRを介して,TおよびB細胞において細胞内Ca2+シグナルおよび転写調節因子c-fos遺伝子発現の増強を起こす.さらに,一酸化窒素産生の増大およびインターロイキン-2を介するシグナル伝達機構を調節する.TおよびB細胞において,nAChR刺激は,少なくとも一部はα7 nAChRサブユニットを介して一過性の細胞内Ca2+シグナルを起こす.T細胞を長期ニコチン曝露すると,nAChRサブユニット遺伝子発現が低下し,結果として細胞内Ca2+シグナルが減弱されT細胞機能が抑制される.すなわち,喫煙による免疫活性の低下にこれらのメカニズムが関与している可能性が考えられる.さらに,リンパ球コリン作動系活性の異常が,2つの免疫異常動物モデルで確認された.以上のように,リンパ球における非神経性コリン作動系により,少なくとも一部の免疫機能が調節されていることが明らかとなった.
  • 白井 康仁
    2004 年 123 巻 3 号 p. 189-196
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    プロテインキナーゼC(PKC)は様々な刺激に応答して細胞内局在を変化させる.その様式はサブタイプにより異なるだけでなく,同一サブタイプであっても刺激の種類によって様々である.その結果,もたらされる細胞応答も異なることが明らかになっている.これらの事実は,刺激に応じて細胞内の様々な部位に移動し特異的基質をリン酸化する機構(ターゲティング)こそが,PKCの多岐にわたる機能において重要であることを示唆している.また,PKCの活性を調節しうるジアシルグリセロールキナーゼもサブタイプ特異的に細胞内局在を変化させること,機能的に連関した両酵素のターゲティングが,直接的な相互作用により実に巧妙に調節されていることも明らかにされた.本稿では,これまでにGFPを用いたライブイメージングにより明らかになったPKCおよびDGKのターゲティングの多様性とその分子機序について紹介する.
  • 赤羽 悟美
    2004 年 123 巻 3 号 p. 197-209
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/02/29
    ジャーナル フリー
    電位依存性L型Ca2+チャネルは細胞内Ca2+シグナルの時間·空間制御における最初のステップとして重要な役割を果たす.心筋細胞のL型Ca2+チャネルは細胞膜と筋小胞体膜が近接した接合膜構造に局在する.L型Ca2+チャネルから流入したCa2+は,その直下の筋小胞体膜のリアノジン受容体からCa2+誘発性Ca2+放出を誘起して収縮系を駆動する.一方,我々は,リアノジン受容体から放出されたCa2+が近傍のL型Ca2+チャネルのCa2+依存性不活性化を引き起こし,その結果,活動電位幅を短縮して活動電位中の総Ca2+流入量を制限することにより筋小胞体のCa2+過負荷を防ぎ,逆にCa2+貯蔵量が減少すると活動電位幅を延長し総Ca2+流入量を増加させて筋小胞体のCa2+貯蔵量を回復させることを見出した.即ち,心筋細胞のL型Ca2+チャネルはCa2+依存性不活性化機構を介して筋小胞体のCa2+貯蔵量を監視·制御するセンサーとしてCa2+シグナリングを安定化させる役割を担うことを明らかにした.Ca拮抗薬はL型Ca2+チャネルα1Cサブユニットに結合し,Ca2+チャネルを不活性化状態へ移行させる.ジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬の立体異性体にはCa2+チャネルアゴニストが存在しCa2+チャネルの開口確率を上昇させる.我々は,ホヤやクラゲのL型Ca2+チャネルα1サブユニットにDHP結合部位としてこれまでに同定されたアミノ酸残基が全て保存されているにも関わらずDHPに対する感受性を欠くことに注目し,DHP結合に関わるアミノ酸残基を探索した.その結果,DHP系Ca拮抗薬の結合親和性に関わるアミノ酸残基(Phe1112,Ser1115)をIIIS5-S6間のチャネルポア領域に初めて見出し,DHP結合ポケットの新たなモデルを提唱した.両アミノ酸を欠くCa2+チャネル(F1112A/S1115A)ではCa2+チャネルアゴニストによる開口時間延長作用が完全に欠失していたことから,Ca2+チャネルアゴニストがポア領域との相互作用を介してCa2+チャネルの開口状態を安定化する可能性を初めて示した.上記の成果は,L型Ca2+チャネルの開閉制御機構について,心筋細胞のCa2+シグナル制御における生理的意義と薬物の結合から機能修飾に至る分子メカニズムの一端を明らかにするものである.
実験技術
feedback
Top