日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「PACAP/VIPシグナル系-新しい創薬標的」
PACAP欠損マウスにおける精神行動変化
新谷 紀人橋本 均馬場 明道
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2004 年 123 巻 4 号 p. 274-280

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抄録

PACAPは神経伝達物質·神経調節因子としての作用のほか,神経栄養因子様の作用や神経発生の調節作用が示唆されている神経ペプチドである.これまで主として脳室内投与実験からPACAPの高次脳機能調節作用の一端が示唆されてきた.しかし,薬理学的濃度よりも極めて低濃度でも作用が認められることから,PACAP投与実験の結果が生体内におけるPACAPの働きとして普遍化できるものではなかった.そこで最近著者らは,PACAPの遺伝子欠損マウス(PACAP-KO)を作成し,主として行動薬理学的解析により本マウスの種々の高次脳機能を解析した.PACAP-KOは新規環境や新規物体刺激に対する反応性が変化しており,不安レベルの低下あるいは好奇心の亢進が認められた.また各種中枢神経作用薬に対する反応性が変化していることも見い出された.PACAP-KOでは記憶·学習の分子基盤として考えられているin vivo LTP形成や,記憶·学習行動にも異常が見い出された.また雌性PACAP-KOでは交配時の行動異常に起因すると考えられる妊孕率の低下が認められた.以上の結果により,多様な高次脳機能の調節にPACAPが関与することが示されたとともに,内因性PACAPの予想外の生理機能が見い出された.また,これらの精神運動行動の異常はある種のヒト精神疾患の一面を反映すると考えられることから,本マウスがこれらの疾患の発症メカニズム等を解析する上で有用なツールとなる可能性が示されたと言える.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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