日本薬理学雑誌
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実験技術
In vivoパッチクランプ記録法の薬理学への応用
吉村 恵古江 秀昌加藤 剛土井 篤水野 雅晴片渕 俊彦
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2004 年 124 巻 2 号 p. 111-118

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抄録

近年,中枢神経の様々な部位からスライス標本が作製され,シナプス応答や神経伝達物質および生理活性物質の作用解析,更に,細胞内2ndメッセンジャーの解析が行われ,中枢における情報伝達の詳細が明らかにされつつある.しかしながら,いずれの部位から作製したスライス標本であっても,基本的なシナプス伝達や薬理作用については大きな相違が見られることは少ない.そこで,重要になるのは同定した細胞から記録を行い,刺激入力線維がどこから,どのような情報を運んでいるかを明らかにすることであろう.それらの情報なしに機能について議論しても推測の域を出ない.この問題を解決する一つの方法としてin vivoパッチクランプ記録法が開発された.この標本では刺激の同定(生理的条件刺激も含めて)は容易に行えること,また,誘起される応答変化と行動学的変化との相関を検討することもある程度可能である.筆者らの研究分野である痛覚伝達に関しては,アミン類やサブスタンスPをはじめ多くのペプチドの関与が,スライス標本などを用いた実験によって示唆されてきたが,現在までのところin vivoの実験ではそれらを介する緩徐な応答は観察されていない.このことはスライス標本などを用いて得られた結果をin vivoに演繹するには慎重であるべき事を示唆している.一方,問題点としては,深層の細胞からの記録では薬物の作用の解析は困難にならざるを得ないこと,また,記録している細胞外のイオン環境を任意に変えることが出来ないことである.本稿では脊髄後角細胞からの記録について述べるが,本方法は,大脳皮質の感覚野,運動野,視覚野,聴覚野,さらに小脳や脳幹からの記録,また,深層の細胞からの記録も可能である.しかし,中枢神経の生理機能を総合的に理解するためには単離細胞,培養細胞およびスライス標本等から得られた結果を合わせて判断する必要があることは言をまたない.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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