日本薬理学雑誌
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124 巻, 2 号
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ミニ総説「新しい薬理学的標的としてのレニン・アンジオテンシン系」
  • 高島 成二
    2004 年 124 巻 2 号 p. 69-75
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/26
    ジャーナル フリー
    循環器領域においてアンジオテンシンIIは重要な役割を担うことが知られている.特に強い生理作用とあわせてシグナル阻害薬が高血圧や心不全の治療に使用されていることからその作用メカニズムを知ることは循環器疾患を考える上で重要である.心筋細胞におけるアンジオテンシンIIの役割はそのGタンパク共役型受容体を介すると考えられており,その結果として心筋細胞の肥大をきたす.しかし,タンパク合成を必要とする肥大反応にG共役型受容体を介する比較的一時的で敏速な細胞シグナルが関与することは特異的なシグナル経路の存在を示唆する.私はアンジオテンシンIIによる心筋肥大シグナルにEGFファミリーに属するHB-EGFという増殖因子が関与することを明らかにした.HB-EGF(heparine binding EGF-like Growth Factor)はG共役型受容体の刺激により細胞膜からメタロプロテアーゼにより分解して遊離され,心筋細胞の肥大を引き起こすことが明らかになった.さらにこのHB-EGFの細胞膜からの遊離が起こらない遺伝子改変マウスを作成すると,このマウスは生後4週ぐらいから徐々に心筋細胞の変性·脱落をきたし,心不全により早期に死亡した.これらの事実はHB-EGFが心筋細胞の肥大をきたすのみならず心筋細胞の代謝·維持に重要な働きを担うことを示唆する.AngiotensinIIなどの刺激によるシグナルはHB-EGFを介していかなる心筋細胞代謝を司るかを概説し,新しい心不全治療の可能性を検討する.
  • 金 徳男, 高井 真司, 岡本 由記子, 村松 理子, 宮崎 瑞夫
    2004 年 124 巻 2 号 p. 77-82
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/26
    ジャーナル フリー
    肥満細胞由来のキマーゼが心血管組織局所のアンジオテンシン(A)II産生において非常に重要な役割を果たしている.例えば,ヒト心臓組織ホモジネートでは総AII産生の8割以上がキマーゼに依存するとも言われている.本研究で,筆者らは心筋梗塞後のキマーゼの役割をヒトと同様のACEとキマーゼの両方のAII産生経路を持つハムスターとイヌの心筋梗塞モデルを用いて検討した.心筋梗塞後のハムスターにおいて,心臓組織のACEとキマーゼの活性化が認められたが,キマーゼの活性化はACEより早期で,かつより持続した.本モデルの生存率と心機能は,キマーゼ特異的な阻害薬の投与によって有意に改善され,その程度はAII受容体拮抗薬を投与した場合とほぼ同程度であったが,ACE阻害薬では有意な改善を認めなかった.イヌ心筋梗塞モデルにおいては,キマーゼ阻害薬は梗塞後の血中AII濃度の上昇とそれに伴う心室性不整脈の発生率に対して有意で顕著な抑制効果を認めた.この程度もAII受容体拮抗薬とほぼ同等であった.これらのことから,心筋梗塞後の病態生理においてはキマーゼの活性化によるAII産生過剰が非常に重要な役割を果たしていることが示され,キマーゼ阻害薬は抗不整脈効果により心筋梗塞後の急性期生存率の改善に寄与することが示唆された.
  • 葭山 稔, 大村 崇, 吉川 純一
    2004 年 124 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/26
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞後心臓リモデリングに対するACE阻害薬の有効性は広く知られているが,今回は,アンジオテンシンII受容体拮抗薬とアルドステロン拮抗薬の併用療法について検討した.モデルはウィスターラットを用いて心筋梗塞を作成してアンジオテンシンII受容体拮抗薬カンデサルタンを1 mg/kg/dayまたはエプレレノン100 mg/kg/dayその併用について心筋梗塞後4週間目に左室拡大,心機能を心エコー図にて確認した.結果は単独でもリモデリング抑制効果が認められたが併用にて,その効果は単独よりも効果が認められた.急性心筋梗塞後心臓リモデリングに対する両薬剤の併用は有効な治療方法と考えられる.
  • 蔦本 尚慶
    2004 年 124 巻 2 号 p. 90-100
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/26
    ジャーナル フリー
    RALES試験やEPESUS試験の結果,慢性心不全や急性心筋梗塞患者においてACE阻害薬などの標準治療薬に抗アルドステロン薬を併用することが生命予後の改善につながることが証明された.しかし,その機序は十分明きらかにされていない.そこで,抗アルドステロン薬の左室リモデリング抑制効果を慢性心不全患者,急性心筋梗塞患者で検討した.すでにスピロノラクトン(Spi)以外の標準治療を受けている心不全患者を対象に,無作為にSpi投与群,非投与群に割り付け4カ月観察した.4カ月後に,Spi投与群においてのみ左室駆出率の改善,左室拡張末期容積の減少,BNP濃度の低下,III型プロコラーゲン濃度の低下を認めた.従って,抗アルドステロン薬以外の心不全治療薬投与下での左室拡大はSpi投与で改善する可能性がありRALES試験の予後改善効果に左室リモデリング改善作用が示唆される.次に,134名の急性心筋梗塞患者を対象にACE阻害薬などの標準治療群とSpi併用群で急性期と,1カ月後の左室機能を比較検討した.その結果,エントリー時に2群間に差異はなかったが,Spi併用群で1カ月後の左室駆出率は保持され,左室拡張末期容積は小さく左室リモデリングが抑制された.急性期に測定した大動脈(Ao)−冠状静脈(CS)間アルドスレロン(ALD)濃度較差は,2群で差異はなく流血中のALDの約20%が心臓に取り込まれた.1カ月後において,Spi併用群では,(Ao-CS)ALD濃度は非併用群に比して有意に低くSpiが心筋梗塞後の心臓におけるミネラロコルチコイド受容体を阻害していると考えられた.またSpi併用群では心筋線維化の生化学的指標とされるIII型プロコラーゲン濃度も有意に低下していた.従って,急性心筋梗塞後の左室リモデリングは従来のACE阻害薬などの標準治療にSpiを併用することで改善する可能性がありEPESUS試験の予後改善効果に左室リモデリング抑制作用が示唆された.
  • 西山 成, 安部 陽一
    2004 年 124 巻 2 号 p. 101-109
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/26
    ジャーナル フリー
    レニン·アンジオテンシン系で中心的な役割を果たすアンジオテンシンIIは,副腎でのアルドステロンの産生·分泌を刺激する.アルドステロンは腎遠位尿細管に存在するミネラロコルチコイド受容体に作用してナトリウム·水代謝を調節するホルモンであることが知られているが,近年その強力な組織障害作用が明らかとなってきた.また,腎症患者にミネラロコルチコイド受容体拮抗薬を投与すると血圧の変化とは関係なくタンパク尿が著減するなど,アルドステロンの腎障害作用に対しても注目が集まっている.しかしながら,どのような機序によってアルドステロンが腎臓の組織障害を生じるのかについては全く解明されていない.これに対して現在我々は,動物モデルと培養細胞を用いて実験を行っている.ラットに食塩水とアルドステロンを長期間投与すると,タンパク尿と糸球体の肥大·細胞数の増加·メサンギウム領域の拡大を示す腎障害を生じるが,我々はこれらが組織中のNAD(P)Hオキシダーゼ発現増加による酸化ストレスの上昇,ならびにタンパク質リン酸化酵素であるMitogen-Activated Protein(MAP)キナーゼの活性化を伴っていることを明らかにした.また,これらすべての変化は選択的ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬のみならず,抗酸化剤の投与によっても完全に抑制された.一方,ラット糸球体培養メサンギウム細胞においてもミネラロコルチコイド受容体は強く発現しており,培養メサンギウム細胞にアルドステロンを投与するとMAPキナーゼが活性化されて様々な細胞障害が生じた.このように,アルドステロンの今まで考えられなかった腎障害因子としての役割が次々と明らかになってきている.したがって,今後はレニン·アンジオテンシン·アルドステロン系として病態をとらえることが必要となってくるであろう.
実験技術
  • 吉村 恵, 古江 秀昌, 加藤 剛, 土井 篤, 水野 雅晴, 片渕 俊彦
    2004 年 124 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/26
    ジャーナル フリー
    近年,中枢神経の様々な部位からスライス標本が作製され,シナプス応答や神経伝達物質および生理活性物質の作用解析,更に,細胞内2ndメッセンジャーの解析が行われ,中枢における情報伝達の詳細が明らかにされつつある.しかしながら,いずれの部位から作製したスライス標本であっても,基本的なシナプス伝達や薬理作用については大きな相違が見られることは少ない.そこで,重要になるのは同定した細胞から記録を行い,刺激入力線維がどこから,どのような情報を運んでいるかを明らかにすることであろう.それらの情報なしに機能について議論しても推測の域を出ない.この問題を解決する一つの方法としてin vivoパッチクランプ記録法が開発された.この標本では刺激の同定(生理的条件刺激も含めて)は容易に行えること,また,誘起される応答変化と行動学的変化との相関を検討することもある程度可能である.筆者らの研究分野である痛覚伝達に関しては,アミン類やサブスタンスPをはじめ多くのペプチドの関与が,スライス標本などを用いた実験によって示唆されてきたが,現在までのところin vivoの実験ではそれらを介する緩徐な応答は観察されていない.このことはスライス標本などを用いて得られた結果をin vivoに演繹するには慎重であるべき事を示唆している.一方,問題点としては,深層の細胞からの記録では薬物の作用の解析は困難にならざるを得ないこと,また,記録している細胞外のイオン環境を任意に変えることが出来ないことである.本稿では脊髄後角細胞からの記録について述べるが,本方法は,大脳皮質の感覚野,運動野,視覚野,聴覚野,さらに小脳や脳幹からの記録,また,深層の細胞からの記録も可能である.しかし,中枢神経の生理機能を総合的に理解するためには単離細胞,培養細胞およびスライス標本等から得られた結果を合わせて判断する必要があることは言をまたない.
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