日本薬理学雑誌
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特集:ストレスと脳
ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系―
視床下部の役割
西条 寿夫堀 悦郎小野 武年
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2005 年 126 巻 3 号 p. 184-188

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抄録

脳は,生体の恒常性を維持するため,視床下部を介して生体の内部環境を常に調節している.一方,ストレッサー(ストレス)は生体の恒常性(内部環境の恒常性)を乱す外乱であり,ストレッサーが生体に負荷されると最終的にその情報が視床下部に伝達され,視床下部は恒常性を回復するため自律神経系,内分泌系,および体性神経系を介してストレス反応を形成する.これらストレッサーのうち,空気中の酸素分圧低下や出血による血圧低下など,生体の内部環境に直接影響を与えるストレッサー(身体的ストレッサー)は,下位脳幹を介して直接視床下部に情報が伝達される.一方,それ自体は内部環境に直接的な影響を与えないが将来的には影響があることを予告するストレッサー(高次処理依存的ストレッサー:猛獣の姿などの感覚情報)は,まず大脳皮質や視床で処理され,さらにその情報が大脳辺縁系に伝達される.大脳辺縁系,とくに扁桃体は,これら感覚情報が自己の生存(恒常性維持)にとって有益か有害かを評価する生物学的価値評価に中心的な役割を果たし,その結果を視床下部に送っている.有益および有害な価値評価はそれぞれ快および不快情動を発現することから,情動は生物学的価値評価とほぼ同義であり,生存のための適応システムであると考えられる.視床下部には,ストレス反応を含めて生存のための様々な情動ならびに本能行動表出プログラムが存在し,視床下部に大脳辺縁系から指令が伝達されると生存のための特定のプログラムが遂行されると考えられる.本稿では,サル扁桃体における生物学的価値評価ニューロンの高次処理依存的ストレッサーに対する応答性やラット視床下部における本能行動表出ニューロンの身体的ストレッサーに対する応答性について紹介する.

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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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