日本薬理学雑誌
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特集:心不全研究のニューパラダイム
オルガネラ発信のアポトーシス
―肥大心から不全心への進展における小胞体ストレスの役割―
岡田 健一郎南野 哲男北風 政史
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2005 年 126 巻 6 号 p. 385-389

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抄録
小胞体は分泌タンパク質や膜タンパク質の折り畳みやタンパク質の品質管理を行うオルガネラである.しかしながら,虚血・遺伝子変異・タンパク合成の亢進・酸化ストレス等の細胞にかかる刺激は,小胞体における正常なタンパク質の折り畳みに支障をきたし,異常な構造を持つタンパク質が蓄積されるようになる(小胞体ストレス).小胞体ストレスが過剰であったり,遷延化した場合,小胞体由来のアポトーシスシグナルが活性化し,細胞死が誘導される.不全心では,酸化ストレスや分泌タンパク合成亢進により小胞体ストレスが誘導されていることが予測される.そこで,本研究では,不全心における小胞体ストレスの役割について検討した.まず最初に,肥大心・不全心における小胞体ストレスの役割を検討するため,マウスの大動脈を縮窄し(TAC),肥大心から不全心に移行するモデルを作成した.肥大心,不全心モデルでは,小胞体ストレスマーカーであるGRP78が発現増加していることを確認した.さらに,不全心モデルにおいてTUNEL陽性細胞の有意な増加を認めた.同時に,小胞体ストレス発信のアポトーシスシグナルについて検討を行ったところ,CHOPのみが不全心モデルにおいて発現増加していた.このことから,マウスの圧負荷モデルでは小胞体ストレスが誘導されていることが確認された.さらに,不全心モデルで認められる心筋細胞のアポトーシスには,小胞体特異的アポトーシスシグナルであるCHOPが重要な役割を果たしている可能性が考えられた.次に,ラット培養心筋細胞を用いて,小胞体ストレスと心筋細胞のアポトーシスの関連について検討した.小胞体ストレス誘導薬剤であるツニカマイシンの投与により,TUNEL陽性細胞数の増加が認められた.同時に,小胞体発信アポトーシスシグナルであるCHOP,JNK,カスパーゼ12の活性化が認められた.小胞体ストレスによる心筋細胞のアポトーシスは,RNA干渉法によるCHOPの発現抑制により有意に抑制されたが,JNK阻害薬やカスパーゼ12阻害薬では抑制されなかった.以上より,小胞体ストレスによる心筋細胞のアポトーシスにはCHOPが中心的な役割を果たすことが明らかになった.最後に我々は,ヒト不全心における小胞体ストレスの関与について検討を行った.ヒト不全心サンプルを用いた検討にて,GRP78が著明に発現増加していることを確認した.次に,小胞体発信アポトーシスシグナルであるCHOPの発現について検討を行ったところ,不全心の心筋細胞において著明な発現の増加を確認した.すなわち,ヒト不全心において,小胞体ストレスならびに小胞体特異的アポトーシスシグナルであるCHOPの誘導が明らかになった.以上より,CHOPを介する小胞体ストレスシグナル活性化により心筋アポトーシスが誘導され,肥大心から不全心への進展に関与する可能性が示された.
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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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