日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
総説
ヒト組織を研究利用するための基盤整備:ヒト組織の提供から保存まで
中谷 祥子小林 真一
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 126 巻 6 号 p. 391-398

詳細
抄録

医学研究において,動物実験の結果をヒトに外挿するためには,ヒト組織を用いた研究は欠かせない.海外ではヒトでの薬物の反応性や動態を予測するため,ヒト組織の研究利用が広く行われている.そこで活用されているのがヒト組織バンクである.わが国ではヒト組織の研究利用のための基盤整備が遅れていたが,2001年に厚生労働省の支援の下,財団法人ヒューマンサイエンス振興財団により公共のヒト組織バンク;ヒューマンサイエンス研究資源バンク(以下,HSRRB)が開設された.HSRRBでは高等動物の細胞や遺伝子の取り扱いに加えてヒトの組織を取り扱うこととなった.ここでは,全国の医療機関から手術等で摘出されたヒト組織の提供を受け,適切に保存,管理し,研究者に適正に分配する役割を担っている.ヒト組織は,厳重に扱われるべきであり,また遺伝子解析研究への利用の可能性も高いことから,HSRRB運営指針では「ヒトゲノム遺伝子解析研究における倫理指針」を遵守することが定められている.従って,各医療機関には本指針に則った体制が求められる.そのようななか,聖マリアンナ医科大学(以下,本学)では,ヒト組織提供医療機関としての基盤整備を行ってきた.そして,2005年3月には,日本薬理学会年会シンポジウムで,ヒト組織を研究利用するための倫理面の検討やシステム作りの検討,さらに診断目的で摘出した組織の研究利用についてなど紹介があり,本学のヒト組織提供システムについても報告した.そこで,今回は本学での研究を詳細に報告するため,(1)臨床試験コーディネーターの導入による,同意説明文書の作成やインフォームドコンセントの実施など業務の円滑化,(2)診断病理部門の協力による組織提供の効率化,(3)個人情報管理者の設置による匿名化,(4)組織処理者の導入による,組織摘出から保存までの迅速化および切除範囲の明確化などについて詳しく報告するとともに,多くの問題点,課題についても検討する.

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top